弁舌巧みな野田氏が代表に 立憲は一枚岩になれるのか 仙石恭
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立憲民主党の次期代表への待望論が既に出ていた昨年夏。「政権交代するために自らできることをやる。自分がトップに立つことは考えていない」。周囲にこう語っていた。当時はそれが本音だったのだろう。
9月23日の代表選で、野田佳彦元首相が選出された。
じわりと広がった待望論
野田氏は演説の巧みさに定評がある。旧民主党政権だった2011年、代表選の演説で、自身をどじょうに例えて話題となった。
23日に国会議員の投票前に行った決意表明では、若手時代に落選して悶々(もんもん)としていた時、参加した勉強会での経験を披露した。「講師はアサガオの話をしていた。花を咲かせるための要件は何か。夜の闇と冷たさこそが一番大事だと」「我々はそれを知っている。ほのかな明かりとぬくもりがありがたいと思っている。『勝ちっぱなし』の自民党にはわからないことを、政策体系でつくってきた。格差を是正し、政権交代を実現しよう」と呼び掛けた。「勝ちっぱなし」というフレーズは、故安倍晋三元首相への追悼演説でも使った。
22年10月の衆院本会議で、野田氏は演説に立った。「勝ちっぱなしはないでしょう、安倍さん。耐え難き寂寞(せきばく)の念だけが胸を締め付けます」「私はあなたのことを、問い続けたい」。自民議員からも「党派は違えど議会人としての矜持(きょうじ)を感じた」などと高く評価する声が相次いだ。このころから野田氏待望論は、立憲党内でじわりと広がっていった。
昨年秋に表面化した派閥裏金事件で、自民は大打撃を受けた。野党にとって、次期衆院選は大きな好機となった。
21年に就任した泉健太前代表は、大きな失策はないと言われていた。今年4月の衆院3補選でも全勝したが、代表選が近づくにつれ「泉代表が首相候補では、衆院選は戦えない」との声が高まった。
当初、野田氏は立候補しないだろうとの見方は根強かった。党幹部は枝野幸男元代表が出馬するなら、野田氏はそれを尊重して出ないだろうと読んでいた。
まず、8月9日、枝野氏が名乗りを挙げた。
政権運営に窮した岸田文雄首相は8月14日に退陣を表明し、自民は総裁交代が確実となった。すると、首相経験を持つ野田氏に期待する声はさらに増し、立候補を決断した。旧民主政権の際、消費増税を巡って決別した小沢一郎衆院議員とも「恩讐(おんしゅう)を超えて」手を握った。
代表選の告示直前は、右往左往する議員が目立った。
立憲は野党第1党だが、所属議員は衆参両院で計136人にすぎない。自民の約370人とは大きな開きがあるが、党首選出馬に必要な推薦人は20人で同じだ。パイが少ないだけに、支持者集めは激烈だった。
野田氏は約10人の「花斉会」、枝野氏は約30人の「サンクチュアリ」というグループに所属しており、推薦人が集まるのは早かった。だが、泉氏は約20人の「新政権研究会」というグループがあり、現職代表であるにも…
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週刊エコノミスト
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