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世界が陥る“低成長” 増大する政府債務 安藤大介・編集部

デフォルトしたスリランカでは今年9月の大統領選で、緊縮財政の見直しを訴える左派候補が当選した(コロンボで9月23日、Bloomberg)
デフォルトしたスリランカでは今年9月の大統領選で、緊縮財政の見直しを訴える左派候補が当選した(コロンボで9月23日、Bloomberg)

 3年超にわたる新型コロナウイルス禍が明けると、低成長の世界が待っていた。世界銀行が6月に発表した今年の世界全体の経済成長率予想は2.6%。米国の景気拡大に支えられ、「3年連続で減速」という状況は現時点で免れると見込んだ。だが、約10年前には経済成長率は4%弱で推移していたことを考えると、「景気後退期に近いような水準」(みずほリサーチ&テクノロジーズの服部直樹・主席エコノミスト)だ。

 先行きも明るいとはいえない。国際通貨基金(IMF)が2024年4月に発表した世界経済見通しによると、世界の経済成長率の5年先(中長期)予測は3.1%で、「過去数十年間で最低の水準」まで落ち込むと見込まれる(図1)。先進国では出生率が低下するほか、AI(人工知能)などの技術革新はかつての自動車産業のような雇用の波及力に乏しい。そして、公的債務の増大が世界経済の回復に影を落とす。

 債務を抱える新興市場国・低所得国にとって誤算だったのが先進国の利上げだ。新興国の債務は多くが米ドルやユーロなどの外貨建てだが、米連邦準備制度理事会(FRB)などはコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻(22年)後に進んだインフレを抑え込むため、急激な金融引き締めに踏み切った。新興・低所得国は自国通貨安となって債務が膨張し、スリランカやガーナ、ザンビアはデフォルト(債務不履行)状態に陥っている。

 債務は今後も増え続ける。IMFの見通しでは、政府債務のGDP(国内総生産)比は先進国で29年まで115%前後で推移し、新興国では80%弱の水準へと上昇する(図2)。世界的に債務が拡大する状況について、服部氏は「第一次・第二次世界大戦後や、社会福祉への支出が増えた1970年代にも見られた」と指摘する。だが、成長に勢いがあった当時とは環境が大きく異なっている。

GDP比258%の日本

 対外債務の返済が厳しくなった国に対して、従来であれば先進国でつくる債権者会合「パリクラブ」が調整役となり、債務減免・経済再生への道筋を描いてきた。だが、先進国も低成長や債務増大で余裕を失う中、元IMFシニアエコノミストの植田健一・東京大学教授は「パリクラブのメンバーでない中国が低所得国への融資を拡大させており、債務減免へ共同歩調をとるのは容易ではない」と語る。

 一方、先進国にとっても債務膨張は見過ごせない問題だ。米議会予算局(CBO)は今年3月、政府債務のGDP比が29年度に第二次大戦後の水準を上回って過去最高となった後、30年後の54年度に166%と24年度(99%)の1.6倍に拡大する長期見通しを示した。世界GDPの4分の1を占める最大の米国経済でも、累増する債務の問題から逃れられない。

 日本は政府債務の対GDP比が258%(23年)と突出する。植田教授は「財政危機のマグマは相当たまっている。富士山と同じで、絶対に噴火しないとは言い切れない」と警鐘を鳴らし、物価対策の各種補助金や民間活力をそぐような企業への補助金をやめるといった、構造改革にもつながる財政スリム化を急ぐよう訴える。債務を抑制して新たな成長への扉を開くことができるのか、世界は大きな歴史的転換点に立たされている。

(安藤大介〈あんどう・だいすけ〉編集部)


週刊エコノミスト2024年10月15・22日合併号掲載

歴史に学ぶ世界経済 世界を待ち受ける「低成長」 公的債務の増大が下押し=安藤大介

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歴史に学ぶ世界経済第1部 マクロ、国際社会編18 世界を待ち受ける「低成長」 公的債務の増大が下押し■安藤大介21 中央銀行 “ポスト非伝統的金融政策”へ移行 低インフレ下の物価安定に苦慮 ■田中 隆之24 インフレ 国民の不満招く「コスト上昇型」 デフレ転換も好循環遠い日本■井堀利宏26 通商秩序 [目次を見る]

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