ピアリビング――「防音」に特化し市場開拓、海外進出も 大宮知信/8
有料記事
防音装置を販売するピアリビング(福岡市)は、夫が起業した会社を妻が「跡継ぎ」になって盛り返した。次々に潜在需要を引き出すバイタリティーで危機を乗り越えた。
>>連載「復活する会社」はこちら
「コロナの流行が始まってまもなく、急に売れ出したんです。何が起こったんだろうという感じでした」
東京・六本木のショールームでピアリビングの室水房子社長(56)はこう振り返った。住宅の床や壁、窓に簡単に取り付けられる防音カーペットや防音カーテンなどを取り扱う。コロナ禍のステイホームで家にいる時間が長くなれば当然、音に敏感となる。当時、防音商品の問い合わせ数が5倍に膨れ上がったという。
コロナ前の売上高は、年間5億円ぐらいだったがコロナ禍に突入する中、8億円(2020年9月期)になり21年9月期は10億円、22年9月期は11億円を突破した。コロナ禍が落ち着くとともに売上高もやや後退したが、24年9月期は10億円程度の見込みだ。
危機救った防音カーペット
室水さんがビジネスの世界に足を踏み入れたのは、夫が福岡県宗像市で電気などの配線を収納する二重床(OAフロア)の施工会社を起業したことがきっかけ。創業は1993年12月で、最初の危機は2000年ごろに訪れた。夫が吸音工事などに業態を転換し関東に進出しようと、埼玉県三郷市に倉庫と事務所まで構えた。ところが、折からの建設不況で創業時に比べ施工単価が6分の1に減少。年商3000万円の会社が赤字に転落した。
借金は数千万円の単位だったが、「会社の方は仕事をすればするほど赤字になって、税理士に倒産を勧められた」と室水社長。「もうやめよう」という夫に、室水さんは「私がやるから」と告げた。当時32歳。幼稚園と小学校の子供2人を抱えていた。
「じっとしていても潰れるだけ」と01年、取引先でもあった日東紡へ「仕事ください」と飛び込み営業した。すげない担当者に「何か売るものはないですか」と食い下がると、1枚のパンフレットが示された。「静床(しずゆか)ライト」という名称の防音カーペット。20年も倉庫で眠っていた商品だった。
「これは売れると直感しました」
室水さんの周囲でも子供がバタバタ走り回る音に悩んでいる主婦が多く、潜在需要を感じたのだ。試しにヤフオクに出品すると月に100万円も売れた。内装業から防音カーペットの販売への転換を果たし、室水さんが社長に就任。ECサイトを通じて年間1億2000万円ほど売り上げた。驚いた仕入れ先の日東紡から役員が視察に来たという。
しかし防音製品の売り上げが順調に伸びていた00年代半ば、建材に使われていた「アスベスト」の健康被害が社会問題化したことが影を落とす。アスベストの風評被害で返品が殺到し、売り上げが半減。アスベストは吸い込むと肺がんや中皮腫を引き起こすが、商品に使われているグラスウールやロックウールに発がん性はない。
「ネットスーパーで見つけた防音カーテンという商品を育てつつ、防音カーペットはアスベストと違って安全ですとサイトで説明をして、何とか乗り越えることができました」
ECサイトの運営と並行し、オリジナル商品の…
残り1564文字(全文2864文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める