マーケット・金融 FOCUS
年内は1ドル=150円前後 政局流動化や株安への懸念で利上げ継続は見込み薄 宇野大介
米国では実質賃金の前年同月比がプラスだった期間は2009年の金融危機以降の7割を占め、日本は4割だった(図)。つまり米経済は底堅く、インフレが再燃する土壌がある一方、日本経済は脆弱(ぜいじゃく)でディスインフレーション(物価上昇率の低下)に回帰しやすい。
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月、雇用最大化と物価安定の2大責務を達成する軟着陸を目指し、予防的な利下げを開始した。FRBが利下げの到達点として2.9%を示していることにならって26年まで金融緩和が続くとする市場参加者の見立ては頓挫するだろう。
米国の中立金利(景気を熱しも冷ましもしない金利)は、FRBの見通しによる潜在成長率と基調的インフレ率を足した3.8%だ。FRBの本音として「19年と同様の保険的な利下げを『真の中立金利』に達するまであと3回程度すれば、労働市場の軟化は十分抑え込める」と算段している可能性がある。
1ドル=150円前後
一方、日本では石破茂首相がデフレ脱却を最優先とする経済・財政運営をうたい、首相就任前は利上げを良しとしていたが、就任の翌日に「追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言。8月には日銀の金融政策を巡り、金融市場が株価暴落・円急騰といった洗礼を浴びせたこともあり、日銀はこのような事態が再び起きることを回避したいものと予想される。
また、党内基盤の弱い石破政権は衆院選で与党の過半数確保も不確かな情勢にあり、政局は不安定になりそうだ。日本が利上げを進めることは難しいだろう。
FRBの長期にわたる大幅利下げ見通しが勢いを失う中、ドル買いは進み、日銀の利上げシナリオ実現も危ぶまれて円売りとなる。ただし、今年、市場参加者が政府・日銀による為替介入への警戒感を高めたタイミングは、22年の介入が始まった時と同水準の1ドル=145円台突入時だった。三村淳財務官による為替動向に関する発言も観察されている。
また、米大統領選の主要候補者2人はいずれも国民受けするバラマキ政策を訴えているが、就任後に実行すれば財政赤字が更に膨らみ、米格付けの引き下げの可能性を高め、ドル売りに作用することもあり得る。これらを考えると、年内のドル・円相場は1ドル=150円前後にとどまることが見込まれる。
(宇野大介・三井住友銀行チーフストラテジスト)
週刊エコノミスト2024年10月29日・11月5日合併号掲載
ドル・円相場 政局混乱や株安懸念から日銀、利上げ継続は困難か=宇野大介