登場する人物121人! 西洋史の裏話満載の一冊 本村凌二
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歴史書は不思議なもの。同時代の者が書いたら史料として役立つし、後世の人が書いても過去の知識として重宝する。それに、時代を経ても色あせない魅力がある本もある。
樺山紘一『欧人異聞』(刀水新書、1210円)もその種の魅力をひめた歴史書である。もともと10年以上も前に日本経済新聞に連載されたコラムを集成したものであるが、教科書に載らない西洋史の裏話であふれている。しかも人物で読むコラムであるから、121人の人柄が歴史の舞台で躍動する様が楽しめる。とりあえず、コラムの表題からは想像できない物語も少なくない。
たとえば「シドッチと白石の真剣勝負」とは? イエズス会修道士のイタリア人シドッチは、すでにキリスト教禁圧が完了して厳しい体制のときに、単身で日本列島に侵入しようとした。スペイン船に潜伏して屋久島に上陸。だが、変装しても無理。ほどなく捕まり、代官所から幕府の管理下におかれた。審問官はなんと新井白石だった。徳川家の政治支配を覆そうなどとは毛頭考えないが、ここで布教の自由を要請した。白石は荒唐無稽(むけい)な教義を笑い飛ばしながらも、西洋文明の基礎となる信仰体系の精髄を理解したいと思ったらしい。その観察眼から、やがて『西洋紀聞』が書きとめられたという。
また「スタンホープの印刷機」とは? 世界史上の印刷といえば、15世紀のグーテンベルクしか思い浮かばない身には、何か気をひかれる。イギリス人…
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週刊エコノミスト
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