「大勢の悪夢に現れる同一人物」役に光るニコラス・ケイジの存在感 勝田友巳
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映画 ドリーム・シナリオ
「承認欲求」自体は新しい概念ではなくても、こんなに人の口に上るようになったのはSNS(交流サイト)が急速に普及したせいだろう。平凡な“一般人”が文字通り一夜にしてセレブになる現象が普通になり、「自分もそうなれるかも」「なりたい」という欲望が創出され、肥大化した。
この映画の主人公ポールは、その写し絵。たっぷり毒を含んだ「シック・オブ・マイセルフ」で注目されたクリストファー・ボルグリ監督が、「ボーはおそれている」などのアリ・アスター監督をプロデューサーに迎え、ニコラス・ケイジ主演で撮ったブラックコメディーである。
大学教授のポールが、ある日突然、注目の的となる。彼が教え子たちや見知らぬ人たちの悪夢に、脈絡なく登場するようになったのだ。しかも傍観するだけで何もしない。SNSでポールの画像が拡散したことから奇妙な現象を多くの人が共有していると話題になり、やがてテレビや新聞でも報じられて、ポールは時の人となる。
凡人がメディアに振り回される筋立ては過去にあっても、設定が秀逸だ。「大勢の悪夢に同じ人物が現れる」という一文だけでそそられる。ポールが他人の夢に登場する場面はシュールなコントのようなおかしさだし、注目の的となってうかれるポールや彼を取り巻く人々の俗物ぶりも皮肉たっぷりに描かれる。
すっかり舞い上がったポールの中で、眠っていた承認欲求が目覚めてしまう。1ページも書いていない著書を出版する夢を膨らませ、自分はもっと認められていいはずだと欲望を募らせる。そして後半、事態は一転。ポールが夢の中で人々を襲いはじめ、今度は非難の的になる。何もしていないのに英雄視され…
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週刊エコノミスト
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