読書日記 家父長制に殺された「あなた」の物語を読む=荻上チキ
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『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、筑摩書房、1500円)。各所で話題となっている韓国の小説だ。社会的タイムリーさだけでなく、物語を進めていく「仕掛け」が巧妙であり、絶望を追体験することで希望を希求させる文芸でもある。
本作では、キム・ジヨンという韓国の女性の生涯を通じて、読む者に「理不尽の原体験」を共有させていく。そこで感じた苦痛を、ラストで一気に突き放すことで、本を閉じた時には、周囲に広がる「性差別無理解社会」に目を向けさせられる。
小説は、奇妙なシーンから始まる。夫方の親戚の集いの場面で、ジヨンは何かに憑依(ひょうい)されたかのように、別人の口調で語り出し、宴席を凍りつかせた。最初は実家の母の口調だったが、その後も別人にひょう変したような言動を繰り返し、周囲を困惑させる。この困惑は、「周囲が期待する振る舞い」を放棄し、異論を挟むジヨンの行動による、告発の衝撃でもある。そこから語りは、彼女の半生を振り返るカルテの記述へと向か…
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週刊エコノミスト
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