教養・歴史ワイドインタビュー問答有用

「次回作は原爆がテーマの長編です」『ニムロッド』で芥川賞 上田岳弘=作家/736

    「普通にたくましく生きていくだけでは、こぼれてしまうものがある」 撮影=武市公孝
    「普通にたくましく生きていくだけでは、こぼれてしまうものがある」 撮影=武市公孝

    仮想通貨をモチーフに現代社会の不安をあぶり出した小説『ニムロッド』で今年1月、第160回(2018年下半期)芥川賞を受賞した。急激に進むテクノロジー、台頭する巨大プラットフォーム企業へも警鐘を鳴らす。

    (聞き手=稲留正英・編集部)

    上田 大きなモチーフが二つあります。仮想通貨と「駄目な飛行機」です。ビットコインなどの仮想通貨は、自分が所属するIT業界のホットな話題なので、取り上げることに特に抵抗はありませんでした。純文学が対象の芥川賞で扱うという文脈で見た場合は、ちょっと評価されづらいだろうとは考えましたが。

    上田 仮想通貨は14年に仮想通貨交換所マウントゴックスが経営破綻したりして、結構、眉唾物として見ていました。しかし、17年末ごろに仮想通貨相場が暴騰し、すごく価値が上がりました。僕は投資もするので、調べてみたら、ビットコインの提唱者が「サトシ・ナカモト」と日本人のような名。それに、最小単位が「satoshi」。おもちゃみたいで、それが面白くて。

    上田 サーバーを絡めたITソリューションの企画販売です。作品の中で出てくるのはデータセンターの会社ですけれど、僕が役員を務める会社ではデータセンターで稼働するソフトウエアを開発しています。

    上田 「駄目な飛行機」を紹介するサイトの存在は16年ごろに知ったのですが、そのメインモチーフとなっているのが、太平洋戦争末期に旧日本海軍が開発した「桜花」というロケットエンジンで推進する特攻機です。これには、海軍特務少尉だった大田正一という提唱者がいます。彼は日本の敗戦のあと、「とんでもないものを作った」と世間からたたかれ、自殺を試みます。

     しかし、結局、死にきれず、その後は、名前を捨ててひっそりと生きます。ビットコインの提唱者が「名前があるだけ」の存在に対し、桜花の提唱者は「名前を捨てた」存在です。これが、すごく対照的で、この二つのモチーフを結び付けたら、何か描けるのではないか、と前から思っていました。

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