新たな罰則違反も公表対象 「第1号」企業はどこ?=米江貴史/白鳥達哉
働き方改革関連法が4月1日から施行された。1947年の労働基準法(労基法)制定以来、70年ぶりの大改革であり、中でも長時間労働や過労死の防止を目的に、あえて罰則を付けてまで残業時間の上限規制や年次有給休暇(年休)の取得義務化を盛り込んだことが大きな特徴だ。新たな制度をより確実に定着させるうえで、罰則規定とともに効力を発揮しそうなのが、労働基準関係の法令違反をした企業名の公表制度だろう。
公表制度の対象となるのは、悪質な違反を繰り返したり、労働基準監督署が書類送検した企業(中小零細企業を除く)で、厚生労働省は「社会への啓発が目的」とする。しかし、公表された企業は当然、社会的なイメージダウンは避けられない。4月1日から1年程度は新たな制度の周知のため、労基署から大目に見られることはあるだろう。しかし、今回盛り込まれた残業時間の上限規制や年休の取得義務化をなおざりにし続ければ、いつ公表第1号の企業となってもおかしくない。
36協定違反は1割
すでにこれまでも、最低賃金を支払っていない最低賃金法違反や、労基法36条に基づく労使協定「36(サブロク)協定」を結ばずに残業させたりした労基法32条違反などで、企業名は公表されている。法令違反の公表の傾向を知るため、編集部は厚労省が2017年5月~18年12月、毎月公表した延べ1531社(複数法令違反の場合は重複して集計)につき、違反法令ごとに独自に集計した。労働災害などに絡む労働安全衛生法違反が62.5%と最も多いが、最低賃金法違反は16.2%、労基法32条違反も10.3%を占めている(図)。
今年4月1日から始まる残業の上限規制は大企業が対象で、中小企業は20年4月1日からの適用となる。また、トラックなど自動車運転業務や建設事業、医師は、働き方の特性を理由に5年間は適用が除外され、24年4月1日から適用される。だが、猶予期間が設けられたとしても、人手不足は待ってくれない。他の業種で働き方や待遇が改善すれば、労働力は条件のいいほうへと流れ、人手不足に拍車がかかることになる。
働き方改革関連法施行直前の今年2~3月、新制度の仕組みや対策を説明するセミナーが相次いで開かれ、企業の労務担当者が詰めかけた。業務システムの見直しから働き方改革を支援する大塚商会が3月12日、東京都内で開いたセミナーには、中小卸売会社で労務担当を務める40代男性も参加。「残業の上限規制をどうやって守ればいいのか」と危機感を募らせていた。働き方改革関連法への対応には、いまや企業の存亡すらかかっている。
(米江貴史/白鳥達哉・編集部)