教養・歴史書評

多文化・異文化問題で歴史の先例を読む=本村凌二

     時計まわりでたどれば、ロシア、リトアニア、ベラルーシ、ウクライナ、スロバキア、チェコ、ドイツに囲まれた国、それがポーランドである。ここには中世末からユダヤ人が大量に移住してきて、世界のユダヤ人の大半が住むようになった。第二次大戦前には、ポーランドの人口の13%がユダヤ人だったという。

     ここを舞台にして、エヴァ・ホフマン『シュテットル』(みすず書房、 5400円)は副題にある「ポーランド・ユダヤ人の世界」を描き、20世紀最大の悲劇に迫る。東欧系ユダヤ人が使うイディッシュ語の「シュテットル」は「小さな町」の意で、とりわけ東部国境近くにあるブランスクの町に焦点が当たる。戦前、約4600人の住民がおり、半数以上がユダヤ人であったが、現在そこにはユダヤ人はいないらしい。

     ナチスのドイツ人兵士は恐ろしく険しい顔をしていたが、不思議なことに、ユダヤ人にとっては憎むべき相手ではなかったという。個人としては感じられず、一枚岩となった力の化身でしかなかった。

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