5G あらゆる産業構造を変える=石川温
今、さまざまな産業から「5G」に熱い視線が注がれている。
「5G」とは第5世代の新しい移動通信システムのことを指す。日本では今年9月のラグビーワールドカップのタイミングで携帯電話各社がプレサービスを開始。2020年春に商用サービスがスタートする。
現在は4Gのサービスが提供されているが、これが5Gに変わるとどうなるのか。
5Gには「高速大容量」「超低遅延」「多数端末接続」という三つの特長がある。通信速度は10倍以上になり、超低遅延で反応速度も光通信と遜色のないレベルになると言われている。多数端末接続は、あらゆるものがインターネットにつながる「IoT」の分野で威力を発揮する。
医療、交通も変わる
ではなぜ、さまざまな産業が5Gに注目しているのか。
これまで3G、4Gと進化してきた移動通信サービスは、どちらかというとケータイやスマートフォンが主役だった。特にスマホが登場し、アプリで機能を追加することによって、新しいサービスが生まれた。しかし、これはスマホの中に閉じた世界観でしかなかった。
5Gは、さまざまなものが通信に対応することで、あらゆる産業構造を変えると期待されている。
例えば、医療分野で5Gを活用すれば、医師が不足する離島で高度な手術を行う場合、5G通信に対応した遠隔手術ロボットを離島に配置。東京からベテランの医師が5G通信を使って、遠隔で手術することも不可能ではない。
5Gであれば、高速大容量なネットワークを使い、8Kの高精細な映像で患部を見ながら手術が行える。メスなどを扱う際には、「超低遅延」の通信により、遠隔操作の反応が遅れることなく、実際に手術をしているのと同じ感覚で操作できるメリットがある。
KDDIと日本航空(JAL)では、5G通信の特長を生かした「タッチレスゲート」を開発している。5Gで利用される28ギガヘルツ帯という周波数帯は、「電波が限られた場所にしか飛ばない」という特長がある。そのため空港の搭乗ゲートの上から電波を飛ばすことで「5Gスマホにチケット情報を持っている人だけゲートを開ける」ということが可能になる。
この仕組みを鉄道の駅に応用すれば、今までは自動改札にSuicaをタッチして通過していたが、こんな面倒なことも不要になる。5G通信に対応したスマホを鞄の中に入れておき、駅の入口を通るだけで、自動的に運賃が引き落とされるようにもできてしまう。東京駅のような巨大なターミナル駅であっても、5Gの「多数端末接続」という特長により、ラッシュ時の通勤客も難なくさばけることができるのだ。
世間では「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉がはやっている。さまざまなものをIT化することで、人々の生活を良くしようという考え方だ。このDXを実現しようと多くの産業が構造変革を起こそうとしているが、その中で主軸となるのが5Gとされている。
今後、あらゆる産業で5Gが活用されようとしている。20年に5Gの運用が開始されて、一瞬ですべての産業に変化が訪れるというものでもないが、これからは「5Gが、自分たちの業界や会社にどんな変化をもたらすか」という視点を持つ必要があるだろう。
(石川温・ジャーナリスト)