法務・税務7月施行 使いこなす!相続法&税

大きく変わる相続のカタチ 自宅贈与は税金にも注意=加藤結花/下桐実雅子

(出所)最高裁判所「司法統計年報」(2017年度)より編集部作成
(出所)最高裁判所「司法統計年報」(2017年度)より編集部作成
(出所)編集部作成
(出所)編集部作成

 いよいよ約40年ぶりとなる改正相続法が施行される。相続時のトラブルを回避し、損をしないためにも、法改正のポイントの理解や税金対策が欠かせない。 改正相続法の大部分が今年7月1日に施行される。相続法とは民法で相続について規定した部分を指し、誰もが必ず関わることになる身近な法律だ。今回の約40年ぶりとなる相続法の大改正に伴い、すでに今年1月から自筆証書遺言の方式緩和がスタートしたが、7月からは遺産分割前に被相続人(亡くなった人)の預貯金を払い戻すことができるようになる(預貯金の「払い戻し制度」)など、相続のカタチが大きく変わる。

(特集)7月施行 使いこなす!相続法&税

 今回の改正法の特徴として、自宅の所有権がなくても配偶者が住み続けられる「配偶者居住権」を新設するなど、配偶者への手厚い保護が挙げられる(配偶者居住権の施行は2020年4月1日)。自宅を贈与・遺贈(遺言で特定の人に財産を残すこと)された結婚20年以上の配偶者が、これまでより格段に多く相続分を得られるようになったこともその一つだ。

 法改正前は、贈与された自宅は特別受益(遺産の先渡し)に当たり、相続分から自宅を差し引かなければならなかった。その結果、預貯金など自宅以外に得られる財産が少なくなり、生活に困ることもありえたが、今年7月の施行後はそうした懸念が薄れる。

 ただ、配偶者への自宅贈与で気をつけたいのは、贈与税との関係だ(表)。贈与税も結婚20年以上の配偶者への自宅贈与について、2000万円までの配偶者控除がある。贈与税の基礎控除(年110万円)と合わせ、2110万円までが非課税となるが、これを超える贈与には贈与税がかかるのだ。

 税理士法人レガート(東京)の服部誠税理士によれば、配偶者への自宅贈与は2110万円までの範囲に収めるよう、自宅の一部を持ち分として生前贈与したうえで、残りを遺贈とする方法が考えられるという。自宅の贈与は遺産分割をスムーズにするというメリットはあるが、服部税理士は「非課税の範囲内でも贈与税の申告が必要で、登記費用や不動産取得税がかかるというデメリットもある。こうした費用と節税効果の比較・検討も必要だ」と指摘する。

「不動産小口化」に人気

 相続対策としてここ数年、人気が高まっているのが「不動産小口化商品」だ。小口化された商業ビルなどの所有権を、不動産特定共同事業法に基づく任意組合に現物出資したり、現金を出資する仕組みで、高額な不動産に少額から投資できる。また、個人が不動産を直接所有するのに比べ、相続などの際に財産を分割しやすいほか、不動産の賃料を配当として受け取ることもできる。

 不動産事業のエー・ディー・ワークス(東京)は昨年8月、京都市中心部の商業ビルを総額12億2000万円の不動産小口化商品として初めて販売。1口100万円、最低出資金額500万円だが、12月中には早くも完売し、1人当たりの平均出資金額は約2000万円という。同社は不動産小口化商品について、REIT(リート)(不動産投資信託)や現金の相続・贈与に比べて評価額が下がるため、節税の効果もあるとする。

 ただ、不動産小口化商品にもリスクがある。不動産市況によって価値が変動する可能性があるほか、市場で売買されるREITほど現金化は簡単ではない。物件に火災などが発生すれば、価値がゼロになることも理論上はありうる。

 相続をきっかけに一家の争いに発展する“争族”は誰にも身近に起こりうる。最高裁の司法統計年報(17年度)によれば、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件を遺産額別に見ると、遺産額1000万~5000万円が最も多く43・3%。1000万円以下を合わせれば、全体の4分の3を5000万円以下が占めている。“争族”に陥らないためにも、改正相続法や税制を使いこなして対策を取っておくことが必要だ。

(加藤結花・編集部)

(下桐実雅子・編集部)

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