週刊エコノミスト Online11兆円市場 介護の勝者

Q&Aで超解説 40年度保険料は月額1.5万円 介護ビジネス市場は28.7兆円=石橋未来

     団塊世代が75歳を超える2025年が正念場の介護保険制度。保険料上昇や担い手不足など課題山積だ。複雑な制度を基礎から解説する。

     Q1 介護保険制度が始まって約20年、当初の想定通りに運用されているの?

     A1 制度導入過程で示されていた65歳以上の保険料(第1号保険料)の見通しでは、2000年度に約2500円(月額、全国平均〈以下同〉)、10年度に約3500円という緩やかな上昇が想定されていた(1997年1月時点)。しかし実際は、高齢者数の増加をはるかに上回るスピードで要介護認定者が増加したことに伴う給付増によって、65歳以上が支払う第1号保険料は大きく上昇した。00年度(第1期事業計画期間)に2911円でスタートした保険料は上昇を続け、18年度(第7期事業計画期間)には5869円と約2倍になっている。

    (注)全国平均、月額。2040年度の推計値は政府資料「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月)で示された25年度、40年度の現在の賃金で換算された第1号保険料と賃金上昇率の仮定から名目額を算出(出所)政府資料「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月)より大和総研作成
    (注)全国平均、月額。2040年度の推計値は政府資料「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月)で示された25年度、40年度の現在の賃金で換算された第1号保険料と賃金上昇率の仮定から名目額を算出(出所)政府資料「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」(2018年5月)より大和総研作成

     今後も高齢化の進展とともに介護需要の高まりが見込まれており、第1号保険料は25年度には8200~8900円程度、40年度には1万5000~1万6600円程度に上昇(脚注)する見込みだ(図1)。既に年金を受給している人の年金受給額は最大でも物価上昇率でしか改定されないことを考えると、このままでは65歳以上の介護保険料の負担は、極めて重くなるだろう。少子高齢化を踏まえた制度改革が求められる。

    有効求人倍率は3.9倍

     Q2 政府はどのような介護を推奨しているの?

     A2 団塊の世代の人すべてが75歳以上となる25年をめどに、「地域包括ケアシステム」の整備が進められている。同システムは地域における医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが一体的に提供されるケア体制のことで、高齢者ができる限り住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指すもの。増加が見込まれる認知症患者とその家族にとっても、さまざまな支援が切れ目なく提供される仕組みの確立と深化が必要だ。

     地域包括ケアシステムは、11年の制度改正で推進が目標として掲げられ、24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問介護看護などのサービスが創設された。しかし、それを担う人材の不足、事業実施のためのノウハウの不足に加え、異なる組織・職種間での連携の難しさなど課題は少なくない。

     Q3 介護分野の人材不足が深刻と聞くが?

     A3 介護関係職種の有効求人倍率は18年平均で3・90倍と、全職業の平均(1・61倍)を大幅に上回る人手不足の状況が続いている。不足する要因の一つに、介護従事者の賃金が低いことが挙げられる。そこで政府は19年10月の消費税率の引き上げに伴い、勤続年数10年以上の介護福祉士を中心に月額平均8万円相当の処遇改善を行う予定だ。財源には40歳以上の保険料と利用者の自己負担のほか、10%へ引き上げられる消費税の増収分の一部が充てられる。

     今後は介護現場でのロボットやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)の技術の導入による業務の効率化が必要だ。そうした新しい技術を使いこなし、介護ビジネスに新たな付加価値を生み出す人材が適正に評価される人事的な仕組みや、先進技術を駆使した介護業界の将来性を示すことも、人材不足問題の解決には必要だろう。

     Q4 保険適用外のサービスが増えていると聞くけど?

     A4 地域包括ケアシステムの構築が求められたことで注目されている。

     中でも、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせた「混合介護」によるケアの質の向上が期待されている。事業者にとっても、保険外サービスの提供によって介護報酬以外の収入を得て職員の待遇を改善できれば、質の高い労働力を引きつけられる。

     しかし混合介護は、自治体ごとに運用ルールが異なるため、実施する事業者はほとんどないのが実態だ。18年9月、厚生労働省は訪問介護と通所介護における混合介護のルールを改めて示したが、同時・一体的なサービスの提供ができないなど、利用者・事業者の双方にとって必ずしも利用・提供しやすいものになっていない(表)。

    (出所)厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取り扱いについて」(2018年5月)などから大和総研作成
    (出所)厚生労働省「介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取り扱いについて」(2018年5月)などから大和総研作成

     20年度末にかけて、東京都豊島区で国家戦略特区を活用した混合介護のモデル事業が行われており、介護以外も含めてどのような規制緩和が必要なのか調査されている。利用者の利便性や介護サービス事業者の生産性や収益性の向上に向け、運用ルールの一層の柔軟化や関連分野の規制緩和が望まれる。

    活発化するM&A

     Q5 介護ビジネスの市場規模は?

     A5 18年度に約11兆円の介護保険給付費は、40年度には最大28・7兆円に拡大すると推計されている。だが、介護保険は公費や保険料を財源とする制度であるため、給付費の拡大は主に税や保険料を支払う現役世代や将来世代の負担を増加させることも意味する。サービス提供を効率化し、さらには保険給付の範囲の縮小によって介護費用の伸びを抑制する努力が不可欠だ。

     給付範囲の縮小が進められれば、質の良い介護を受けるために保険外のサービスの利用が増加すると考えられる。近年、異業種から介護分野に参入する大企業も増えており、豊富な資金力を背景に、M&A(企業の合併・買収)を活発化させている(図2)。

    (注)2019年は4月末(出所)レコフM&A情報より大和総研作成
    (注)2019年は4月末(出所)レコフM&A情報より大和総研作成

     その場合の対象は、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームのほか、介護ロボット開発企業や介護システム開発企業などさまざまだ。異業種の参入によって新たな保険外サービスが生まれ、高齢者のニーズに合致する可能性は大いにある。

     また政府は、介護事業に関して経営の大規模化・協働化により人材や資源を有効活用すべきという方針を示している。零細・中小規模が多い介護事業所が、統合・再編によってスケールメリットを生かした運営が可能になれば、生産性や収益性は大きく向上する。公的保険をベースとしたビジネスであるとしても、超高齢日本において、介護は成長が期待できる産業の一つと言えよう。

    (石橋未来・大和総研政策調査部)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月17日号

    勝つ負ける地銀ランキング18 弱まり続ける「稼ぐ力」 “利益率かさ上げ”のツケ ■大堀 達也/吉脇 丈志19 最新 地銀全103行収益力ランキング23「粉飾倒産」でヤケド負う ■編集部24 東証改革 時価総額500億円未満が1部市場に31行 ■編集部27 “無風”の減益 「益出しのネタ」尽きる “苦 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ PR

    最新の注目記事

    ザ・マーケット