週刊エコノミスト Onlineマンションの悲劇

どうなる?マンション価格 新築供給絞り込み高値継続 中古シフトで成約件数が増=編集部

(出所)東京カンテイ「マンションデータ白書」より編集部作成
(出所)東京カンテイ「マンションデータ白書」より編集部作成

 分譲マンション価格が新築・中古ともに高値圏での推移が続いている。特に首都圏で顕著で、新築では好立地の物件を中心に、高値警戒感が漂う中でも価格上昇が継続。中古価格も連れて上昇している状況だ。新築では人件費などの高騰を背景に、分譲マンションのデベロッパー(開発業者)が高価格でも売れやすい物件に絞り込む形で供給戸数を抑制。今年10月に予定される消費税率引き上げの影響も今のところ見られず、新築・中古マンション価格の高止まりは今後も続きそうだ。

 東京カンテイによると、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の新築分譲マンション価格は、2018年の1戸平均で5592万円と前年比0.9%上昇している(図1)。上昇は2年連続で、平均坪単価(約3.3平方メートル当たり)も291.6万円と0.6%上昇した。近畿圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県)も1.7%上昇の4001万円、平均坪単価は0.4%上昇の211.2万円だ。

 特に現在の首都圏の価格水準は、すでに平均的な年収の層には手が届かないところにある。東京カンテイが1人当たりの雇用者報酬を基に算出する新築分譲マンション価格の「年収倍率」(70平方メートル換算の価格が平均年収の何倍に当たるかを示す)は、17年時点で11.01倍。年収倍率は「6~8倍」が手の届く水準とされるが、東京都では13.26倍にもなる。

 首都圏の中古マンションの1戸平均価格も、18年は3348万円と2.8%上昇した。中古の平均坪単価も1.4%上昇の181.6万円で、中古の1戸平均価格と坪単価はいずれも実に5年連続の上昇が続く。新築・中古の分譲マンション価格とも、「ミニバブル」と呼ばれたリーマン・ショック(08年)前の水準を優に上回っている。

進む大手デベ「寡占」

 マンション市場ではすでに数年前から高値警戒感が指摘されていたが、なぜ現在も価格上昇が続くのか。一つにはデベロッパー側の事情がありそうだ。住宅市場に詳しい都市未来総合研究所の清水卓主任研究員は「人件費を中心に建設費の高止まりが続いており、地価も景気・投資需要を伴って上昇基調にある」と話す。新築マンション価格のベースとなる土地・建物代がそもそも下がらないのだ。

(出所)東日本不動産流通機構、不動産経済研究所より編集部作成
(出所)東日本不動産流通機構、不動産経済研究所より編集部作成

 デベロッパーの新築物件供給はいきおい、高価格でも売れる可能性が高い「駅近」や都心への直結性に優れた立地に絞り込まれる。不動産経済研究所によると、首都圏では05年まで年間8万戸超の分譲マンションが新規供給されていたが、16年以降は3万戸台の供給にとどまっている(図2)。それでも、好立地の物件は富裕層の相続対策としての需要が底堅く、通勤のしやすさや生活環境の良さを求めるパワーカップル(夫婦共働きの高年収世帯)の存在も価格の高値維持に一役買う。

「リーマン・ショック前とはデベロッパーの顔ぶれも大きく変わった」と指摘するのは、都市未来総合研究所の平山重雄常務研究理事。リーマン・ショック前には中堅・中小のデベロッパーが郊外で盛んに低価格帯の新築分譲マンションを開発していた。しかし、その後の金融不安のあおりで破綻するなどして事業を縮小。その結果、好立地の物件を手掛ける大手のシェアが年々高まっている。

 東京カンテイによれば、首都圏の新築マンション供給戸数に占める大手7社(住友不動産、大京、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、野村不動産、東急不動産、東京建物)のシェアは、11年は39.6%だったのが、18年は56.7%へと上昇を続けている。

 こうした新築分譲マンションの価格の高止まりと供給の絞り込みは、中古マンションの価格上昇にも反映していると言えそうだ。データの質が異なるため直接比較は難しいが、首都圏では数字の上で16年以降、中古分譲マンションの成約件数が、新築分譲マンションの供給戸数を上回る状況が続いている。「リノベーションが普及するなどし、購入者側の中古物件に対する許容度が上がっている」(清水氏)ことも一因にある。

消費増税の影響薄く

 東京カンテイが主要駅別に算出している中古マンション(築10年)の「リセールバリュー」(価格維持率)は、首都圏で18年、対象630駅のうち138駅で100%を上回り、築10年が経過しても新築分譲時より高い価格で流通している。高いリセールバリューが目立つのは、東京都心へのアクセスに優れたり、駅周辺で大規模な再開発が実施されている駅だ。一方、東京都心から離れた駅ではリセールバリューも低水準にとどまっている。

(注)「価格改定シェア」は各月の中古マンション流通戸数のうち直近3ヵ月で一度でも値下げした住戸の割合。「値下げ率」はこれらの住戸で最も高い売り出し価格と最も安い売り出し価格から算出 (出所)東京カンテイより編集部作成
(注)「価格改定シェア」は各月の中古マンション流通戸数のうち直近3ヵ月で一度でも値下げした住戸の割合。「値下げ率」はこれらの住戸で最も高い売り出し価格と最も安い売り出し価格から算出 (出所)東京カンテイより編集部作成

 現在の新築・中古分譲マンション価格の高止まりはいつまで続くのか。東京カンテイの高橋雅之主任研究員が注目するのは、中古分譲マンションの流通戸数のうち直近3カ月間で値下げした戸数の割合(価格改定シェア)と、その値下げ率の推移だ(図3)。新築に比べて中古のほうが市場動向を価格にダイレクトに反映しやすく、市況の変調の前にはいずれの指標も大きく変化する特徴があるという。

 実際、東京23区で12年から13年にかけて価格改定シェアが低下し、値下げ率も縮小したころから、首都圏の新築・中古分譲マンション価格も上昇トレンドを描き始めた。高橋主任研究員は「現在は価格改定シェアも値下げ率もちょうどいいところでバランスしている。この状況が続く限り、価格の急落はないのではないか」と話す。

 新築分譲マンションの販売動向で気になるのは、今年10月1日に予定される消費税率の引き上げ(8→10%)の影響だが、不動産関係者は異口同音に「今のところ大きな影響はほとんど見られない」と言う。前回14年4月の引き上げ時(5→8%)には駆け込み需要も一部で見られたが、今回は引き上げが2%分にとどまるうえ、住宅ローン減税の延長など政府の対策もある。また、マンションの価格上昇が続いていることも、購入者の消費増税の負担感抑制に影響していそうだ。

(編集部)

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