管理不全は“監視対象”に 自治体に広がる届け出制度=下桐実雅子/加藤結花
マンションの管理不全を未然に防ぐため、マンションの管理状況を把握しようという自治体の取り組みが広がっている。マンションが管理不全に陥って“廃虚”化すれば、地域社会に悪影響が及ぶほか、いずれは解体などで公費負担も強いられることになるからだ。今後、1980年代のバブル期に大量供給された分譲マンションが続々と築40年を迎える。分譲マンションは今や自治体の“監視対象”だ。
東京都内の閑静な住宅街。3階建て25戸のある分譲マンションの裏手に回ると、粗大ゴミが山積みとなっていた。ガスコンロや収納ボックス、座椅子。オートバイまで放置されている。築約30年ですべて賃貸されているようだ。ただ、関係者によると、管理組合は機能しておらず、入り口のオートロックは故障。漏水も放置され、空室も多いようだ。周辺のマンションの管理人は「粗大ゴミはずいぶん前から置かれっぱなし。植木の剪定(せんてい)もされていない」と顔をしかめる。
好立地に戸建てより安く家を買える──。分譲マンションは70年代以降、各地で盛んに開発され、新築時の最新設備や間取りが新しい生活スタイルを求める人々を魅了した。立地によっては新築時の価格より高く売れる資産性もある。全国の分譲マンションの新規供給は、2007年の22万7000戸をピークに、現在は年間10万戸前後で推移するが、現在もなお増え続けていることに変わりはない(図1)。
実態把握はこれから
対照的に、「いかに長く良い状態で住み続けるか」という管理の問題は長年、おろそかにされてきた。「いざとなれば売ればいい」という所有者の意識もあっただろう。しかし今、マンション自体の老朽化や居住者の高齢化がひたひたと進む。20年後の2038年には、築40年超の分譲マンションが366万戸にも増える見込みだ(図2)。外国人が所有者となることも珍しくなくなり、所有者の意思疎通を欠いて管理組合が機能しなくなるケースが頻発するようになっている。
自治体の対応はまだ緒に就いたばかりだ。東京都は20年4月から、マンションの管理組合の有無や修繕積立金の月額などの届け出を、83年以前に建てられた6戸以上のマンションの管理組合に義務づける。今年3月に条例を制定した。管理不全の兆候のあるマンションを把握した上で、管理組合のないマンションには専門家を派遣するなどして設立や活動を支援する。
東京都はこれまでも、マンションの管理状況について都内の全マンションに実態調査を試みたが、回収率は17%と極めて低かったという。未回答のマンションに訪問するなどしても、管理状況を把握している人がいなかったり、賃貸化されていて区分所有者と接触できないといった壁にはばまれた。今回の条例化では対象のマンションを、管理組合について明確な規定のなかった83年以前に建てられた物件に絞ったが、実態を把握できるのはまさにこれからだ。
神戸市は「認証」検討
市街地にタワーマンションが林立する神戸市。市が設けた有識者で作る「タワーマンションのあり方に関する研究会」は昨年12月、タワマンの管理組合を対象に届け出を義務づけるとともに、届け出を促すためのインセンティブ(動機付け)として、管理状況をチェックして優良な管理組合を認証する制度の導入を提案する報告書をまとめた。タワマンは規模が大きく超高層なため、管理不全に陥れば地域に与えるインパクトは計り知れない。
市は報告書を受け、当初はタワマンを対象に制度の導入を検討していたが、現在は市内すべての分譲マンションに対象を拡大できないかと模索している。今夏にも不動産関係者を中心に検討会を立ち上げ、20年度以降の制度導入を目指す。認証制度の導入が実現すれば全国初だ。だが、こうした取り組みは一部の自治体にとどまる(表)。国土交通省の調査では、「マンションの実態が分からない」と答えた自治体が8割を占めている(図3)。
国交省も、自治体がマンションの管理状況を把握するための制度や、マンションの管理状態に応じて必要な助言や指導、専門家派遣、修繕の代執行などの対応ができる制度の検討を始めた。来年1月の通常国会での法改正などを目指している。また、国交省の有識者検討会は今年3月、「生命・身体に危険を及ぼす確率が高いマンション」については、マンションやその敷地の売却を促進する仕組みを検討すべきとの提言案をまとめた。
新しい生活を夢見て取得した分譲マンションが、悲劇の舞台とならないために、備えるべきことはあまりに多い。
(下桐実雅子/加藤結花・編集部)