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空き家にしない! 「住まいの終活」のススメ エンディングノートを作ろう=野澤千絵

    (出所)野澤千絵『老いた家 衰えぬ街――住まいを終活する』(講談社現代新書)特別付録「住まいのエンディングノート」より抜粋
    (出所)野澤千絵『老いた家 衰えぬ街――住まいを終活する』(講談社現代新書)特別付録「住まいのエンディングノート」より抜粋

     空き家の多くは、相続や住み替え、高齢者施設への入居などにより、いつか対応しなければと思いながらも、さまざまな事情で、とりあえず空き家のまま置いておくことから始まる。しかし、時間とともに、空き家は傷み、高齢化やさらなる代替わりで、維持・管理が行き届かない空き家へと変容していく。こうした維持・管理が行き届かない空き家を、筆者は「荒廃空き家」と呼んでいる。

     一般的に、市町村が対応し始めるのは、近隣からの通報などがある荒廃空き家の段階である。市町村は、固定資産税の課税情報などで探索した所有者に適正管理のお願いの連絡を機に、所有者自身が改善を図るケースもある。しかし、所有者の高齢化や認知症、海外居住、相続問題が未解決といった事情や、所有者が多数だったり所在不明だったりすることで、荒廃空き家の一定数は放置されている。このような放置された状態の空き家は「対応困難空き家」と呼んでいる。

     市町村の空き家担当者からは、適正管理の依頼の連絡をするたびに、自分が法定相続人だと知った人の相続放棄が相次ぎ、最終的に相続人不存在の空き家になるなど、多くの時間や手間をかけても根本的な解決にならない……という苦悩の声も聞かれる。

     対応困難空き家は法制度上、公費による解体(代執行)や、相続財産管理人制度を利用した国庫への帰属などが可能である。しかし、実務上では、市町村の財源・人員不足、モラルハザードなどの問題もあり、極めて緊急性・公共性が高い場合に限定せざるを得ない。その結果、対応困難空き家は塩漬け状態のまま地域に残り続け、最終的にはその対応を将来世代に押し付けることになる。

     2013年の総務省「住宅・土地統計調査」によると、核家族化により、戸建ての4軒に1軒が高齢世帯だけで暮らしており、空き家予備軍が大量に控えている。今後、同じエリアで空き家化が相次ぐと、エリア全体の価値が下がり、将来、相続する家族や親戚が対応に苦しむことになる。

     つまり、空き家対応は、荒廃空き家への「対症療法」だけでなく、これ以上、空き家にしないという「予防療法」にも軸足を置くべき時期に突入している。その方策として、筆者は、社会システムとして、「住まいの終活」が根付くことが必要不可欠と考えている。

    五つのステップで

     住まいの終活とは、相続発生前の、所有者やその相続予定者が元気なうちに、将来、住まいをどうするのかといった選択肢を考え、そのために必要な前提条件の整理や信頼できる相談先のめどをつけておこうというものである。住まいの終活が当たり前の社会になれば、空き家・空き地の増加による街の価値の低下や、空き家の所有者不明化を予防し、ひいては市街地の持続的な世代交代を促すことにもつながる。

     すでに、まちぐるみで住まいの終活に取り組もうとする地域も複数出てきている。愛知県のとあるニュータウンでは、「住まいのよろず相談所」を立ち上げようと、今年、地域イベントでアンケートを取った結果、「相談したい」「情報が欲しい」と回答した人が6割と、住民も住まいの将来に不安を感じていることがうかがえる。

     それでは、実際にどのように住まいの終活を進めておけばいいだろうか。ここでは、特に重要なポイントに絞って紹介するが、図のような五つのステップに沿って「住まいのエンディングノート」を作っておくといいだろう。

     まず、所有する全不動産をリスト化し、売買などに必要な基礎資料をそろえておくことだ。その過程で、不動産の登記名義人や共有の状況、前面道路の状況や上下水道管が他人の敷地を通っていないかなど、売買など不動産の処分を円滑に進められるよう前提条件の確認・整備を行う。

     特に、先代からの相続後、未登記の場合や土地の境界が確定しない場合、専門家に相談し、早急に対応する必要がある。近年、隣地が所有者不明で境界確定ができないケースもあるため、とにかく早めの対応が必須である。管理状況が悪いと思われる分譲マンションの場合は、改善に向けて管理組合の活動に積極的に参画することも必要になる。

     こうした作業をしながら、将来の住まいの選択肢と信頼できる業者・相談先の情報を収集し、道筋・めどをつけていく。

    75歳にはスタート

     ここで重要なのが、現在の居住者が元気で、近所付き合いがあるうちに着手し、得られた情報を家族・親戚と共有しておくことである。なぜなら、その地域の空き家や中古住宅の流通に、どのような業者がかかわったのか、信頼できる業者なのかなど、地元から離れて住む相続人だけでは知りえない情報を収集できるからだ。

    「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(研究代表者・二宮利治、15年3月)によると、認知症の有病率は、75~79歳は男性10%、女性12%だが、80~84歳で男性21%、女性27%と倍増し、85歳以上は男性47%、女性59%と推計されている。よって、住まいの終活は、少なくとも75歳で始めることが望ましい。

     住まいの終活に向けた課題としては、(1)住まいにも終活が必要だという意識の醸成ときっかけづくり、(2)住まいの終活を支える担い手・ビジネスの育成、(3)誰も引き取り手のない不動産の受け皿・流通のための仕組みづくり、(4)住まいの解体にもメリットがある税制などの充実、(5)将来、空き家になる可能性の高い立地での新築住宅の抑制──などがある。

     いずれにしろ、これ以上、空き家を増やして次世代に多大な負担を押し付けないよう、社会全体が尽力することが重要であろう。

    (野澤千絵・東洋大学建築学科教授)

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