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“スクショ”も私的保存も「違法」 これだけ危険な著作権法改正=前原一輝

    静止画のダウンロード違法化は「スクショ」も対象になるなど、一般利用への影響も大きい(Bloomberg)
    静止画のダウンロード違法化は「スクショ」も対象になるなど、一般利用への影響も大きい(Bloomberg)

     文化庁がまとめた静止画のダウンロードを違法とする著作権法の改正案が今年3月、自民党の総務会で検討されたが、漫画家らの理解が得られていないとして、了承を先送りした。現行法では、ダウンロードは音楽と映像に限って違法となっているが、その対象範囲を全著作物に拡大するものだ。

     もし、この法案が国会に提出されて、十分な検討がされないまま可決・成立していれば、この国では未曽有の言論弾圧が起こったかもしれないのだ。この改正案の問題点について意見を述べたい。

     結論から言うと、今回の静止画ダウンロードの違法化には、私は強く反対である。そもそも、ことの発端は、「漫画村」「MioMio(ミオミオ)」といった「リーチサイト」である。リーチサイトとは、違法な複製物(コピー)を公開しているサイトにアクセスできるようなリンクを張り、無料で人気漫画などを読めるようにしたサイトで、著作権者などの被害が深刻化している。リンク情報を集めて掲載したリーチサイトは、自らは違法なコピーを行っておらず、「リンクを張っただけだから適法である」と主張し、自らを正当化していた。

     実際のところ、リーチサイト自体をただちに止める方法はなく、政府は2018年、インターネットプロバイダー(接続事業者)に対して、リーチサイトへのブロッキング(接続遮断)をするように求めることで対応しようとした。

     ブロッキング自体は、すでに児童ポルノについて行われており、技術的には可能な措置ではあるが、それを法的に義務付ければ憲法が保障する「通信の秘密」に抵触するため、非常に慎重な判断が求められる。ブロッキングを行うには、すべての利用者の通信を監視する必要があり、通信の秘密を侵害するからだ。

     また、民間の業者が自主的にブロッキングを行う場合には、憲法上の問題は避けられるかもしれないが、電気通信事業法(電気通信事業者の取り扱い中の通信の秘密は、侵してはならないという条項)違反となることは免れず、刑法上の正当業務行為や緊急避難として正当化するしかないという状態である。ただ、これらの要件も非常に厳格だ。

     ブロッキングにこのような問題点があることから、文化庁は静止画ダウンロードを違法とする法改正にかじを切った。具体的には、「インターネット上で違法に配信されたと知りながら、静止画(漫画、小説、写真などを広く含む)などをダウンロードする行為に2年以下の懲役か200万円以下の罰金、またはその両方を科す」というものである。

    言論の自由への脅威

     文化庁の説明では、「違法であると知りながら」という故意の要件によって、対象の限定を図っているが、この点が非常に問題である。というのも、故意は「未必の故意」、つまり、確定的に犯罪行為を意図していないが、犯罪行為に当たることを認識・認容していることも含む概念であるから、例えば、ツイッターやフェイスブックなどのSNS(交流サイト)で違法に掲載されている画像を、私的に保存する意図でダウンロードするだけで「故意あり」とされ処罰される可能性がある。スマートフォンの画面を、メモ代わりに画像として保存する「スクリーンショット」に著作物が映り込んだ場合も対象になる可能性があるなど、一般的なネット利用にも影響が及ぶ。

     それ以上に問題なのは、捜査当局がこの概念を恣意(しい)的に運用することで、特定の人物を犯罪者として捜査や逮捕の対象としやすくなることである。そうなれば、権力者にとって不都合な発言をする者を処罰するための法律になってしまう恐れがあり、「言論の自由」に対する脅威である。

     そもそも、今回の静止画ダウンロードの違法化は、海賊版サイトを撲滅し、出版社や漫画家の利益を擁護することを目的としてきた。しかし、実は漫画家やイラストレーターの立場からも、これまで、インターネット上のさまざまなサイトから研究や創作のための素材を集めていたのに、それが犯罪と見なされる可能性があるとなると容易にできなくなるという懸念が示されている。

     そういった危惧から日本マンガ学会は、「2次創作の研究に支障がある」と主張している。それに加えて、私たちが、これまでは当たり前に行っていた、静止画のダウンロードをしただけで、ある日犯罪者にされてしまう危険すらあるのだから、すでに当初の目的を逸脱しているどころか、悪い方向へ向かっている。

    権利侵害者の追及が先

     権利侵害者への追及は、まずは現行の法制度のままで続けるべきである。日本の弁護士が18年10月、漫画村の運営者を特定したという報道がなされた。弁護士は、漫画村に作品を無断で掲載されていた漫画家が原告となった米国での民事訴訟の代理人であり、漫画村にサービスを提供していた米国の会社から情報を得たという。こうした方法論が広まれば、個々の権利者が、問題の元凶であるリーチサイトの運営者などに対して直接訴訟を提起することも可能になる。

     今回の議論の中で政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議から示された損害額は、「漫画村」では約3000億円、「Anitube」は約880億円、「MioMio」で約250億円と推計されているが、それが正しいのであれば、訴訟を起こしても十分に見合う額となる。

     もし、そのような方法がうまくいかないという場合に初めて、今回の法案で検討された静止画ダウンロードの違法化といった手法を検討するべきである。そして、その場合にも、処罰の対象を「漫画」や「有償の著作物」を著作権者の許可なくダウンロードした場合に絞るなど、保護する著作物を限定する必要がある。

     今回の法改正は、説明が足りないまま法案が示されたという理由で、たまたま自民党内のストップがかかった形であるが、文化庁は内容を見直して今秋の臨時国会に向けて再提出を目指す、と報道されている。

     今後は、弁護士が積極的に権利侵害をしている者に対する訴訟を行い、法改正とは別の方法があることを実証していく必要があると思う。

     静止画ダウンロードの違法化は一歩間違えば、捜査機関に、誰を処罰し、誰を処罰しないかについての広い裁量を持たせることになり、ひいては、権力者にとって不都合な発言をする者を処罰するための法律になってしまう危険をはらんでいる。安易な法改正がされないよう、これからも注意深く動向を見守る必要がある。

    (前原一輝・麹町パートナーズ法律事務所弁護士)

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