週刊エコノミスト Onlineみんな空き家で悩んでる

8年以上も買い手がない 相続した実家の重たい負担=村田晋一郎

    住宅密集地の中に空き家が潜んでいるかもしれない(Bloomberg)
    住宅密集地の中に空き家が潜んでいるかもしれない(Bloomberg)

     空き家に悩む人が後を絶たない。売ろうにも売れない、遠方のため管理が難しい、老朽化して近隣に迷惑を掛けそう──。総務省が今年4月に発表した5年に1度の「住宅・土地統計調査」(2018年)によれば、空き家数は全国で実に846万戸。前回13年の調査に比べ、26万戸増加した。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%と過去最高を記録。7戸に1戸が空き家の計算となり、誰しも無縁ではいられない。 山口県内に住む80代女性も、空き家に悩む一人だ。クルマで1時間ほどの市街地に、母親が住んでいた実家がある。平屋建て3LDKの庭付き一戸建てで、土地の広さは約130平方メートル。だが、建物は間もなく築70年を迎えようとしており、見た目に古さを感じさせる。戦後間もないころに宅地造成された地域で、周辺には住宅も並ぶ。しかし、敷地内に駐車場のスペースはなく、周辺にはコンビニエンスストアなど店舗がまばらだ。

    山口県内の空き家の庭の手入れ前
    山口県内の空き家の庭の手入れ前
    山口県内の空き家の庭の手入れ後
    山口県内の空き家の庭の手入れ後

    「タダでもいいから…」

     この女性が空き家を所有したきっかけは相続だ。母親が9年前に亡くなり、長女のこの女性と長男、3女が相続。しかし、長男は母親が亡くなった1カ月後に病死し、現在は女性と長男の妻、3女の3人の共有名義になっている。空き家の庭は放っておけば草木が伸び放題になるため、半年に1度は手入れが必要だ。だが、東京都に住む3女は、遠すぎることを理由に管理を女性と長男の妻に任せている。「いつまで手入れしなければいけないのか……」。女性の顔が暗い。

     現地の不動産会社に売却を依頼しているが、8年以上も買い手が付かない。不動産会社のホームページに掲載された物件情報では、販売価格は約260万円。掲載物件の中で最安の物件だ。不動産売買の仲介手数料は金額に応じて一定率が決められており、この価格ではたとえ成約しても不動産会社への実入りは少ない。不動産会社にとって積極的に売りたい物件ではなく、半ば放置されているように映る。

     この空き家の固定資産税・都市計画税は年間約1万円。女性と長男の妻で半額ずつ負担している。女性が今、気がかりなのは、自分が亡くなった後のことだ。夫と長女、長男が相続人となるが、夫や子にとっては空き家は直接の縁がない。長女、長男とも東京都に住み、負担を押し付けるだけになってしまう。女性は「誰かにタダでいいから引き取ってほしい」と悲鳴にも似た本音を漏らす。

    東京でも起こりうる

     空き家問題は地方に限らない。東京都杉並区の最寄り駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅地。隣り合う2軒の戸建てが今年、独居の高齢者が亡くなり、ほぼ同時期に空き家になった。空き家の情報を耳に入れた不動産コンサルタントの渡辺清貴氏と現地を訪ねてみると、どちらも一見、すぐにでも買い手が付きそうな家。だが、渡辺氏によれば、どちらもこのまま空き家になる可能性が高いという。

     1軒は道路に面しており、築年数は10年もたっていない。住んでいた高齢の男性には子どもがいるが、疎遠で連絡が取れないという。もう1軒は、道路への出入り口部分が細長い、いわゆる「旗竿(はたざお)地」。築年数は40年を超えているとみられ、建物の壁面から屋根にかけてツタが絡んでいる。住んでいた高齢女性も親族と疎遠だったといい、空き家の活用の見通しは立っていない。建て直すにも大型の重機は入れられない立地だ。

     管理する人がいなければ、空き家はすぐに荒れ果ててしまう。最悪の場合、倒壊して隣家などに被害を与えたり、放火されたりする危険もある。そうでなくとも、住宅密集地に空き家が増えると、密集地全体の活気を失わせ、資産価値も落としかねない。空き家問題に詳しい東洋大学の野澤千絵教授によれば、こうした現象は空き家をスポンジの穴にたとえ「スポンジ化」と呼ばれるという。直接空き家を所有していなくとも、身近に降りかかる問題だ。

    「4戸に1戸」へ増加?

     空き家は今後、どこまで増えるのか。野村総合研究所は昨年、2033年までの空き家予測を発表した。それによると、33年の空き家戸数は1955万戸、空き家率は27・3%と予測、つまり4戸に1戸以上が空き家になるとの計算だ。住宅・土地統計調査のほか、住宅着工の統計や人口動態などのデータも活用。取り壊される「除却戸数」を加味して推計した結果は、行政や不動産関係者などに大きな衝撃を与えた。

    (出所)総務省「住宅・土地統計調査」より野村総合研究所作成
    (出所)総務省「住宅・土地統計調査」より野村総合研究所作成

     ただ、野村総研は昨年時点で18年の空き家数を1026万戸、空き家率を16.1%と予測していたが、実際の住宅・土地統計調査の値はいずれも大きく下回った。除却戸数が予想以上に多かったことが主な要因で、15年に施行された空き家対策特別措置法などの影響により、「空き家問題の社会的関心が高まり、空き家の除却や住宅以外への用途転換が進んだと考えられる」(野村総研グローバルインフラコンサルティング部の榊原渉部長)という。

     それでも、野村総研は今年6月、空き家の除却や用途転換の傾向が今後続いたと仮定して、世帯数減少が加速する33年には空き家率が17.9%に上昇するとの新たなシミュレーション結果を発表。除却率が以前の水準に戻った場合は、33年の空き家率は25.2%へと悪化する。短期的な空き家の急増は回避できたとしても、長期的には依然として増加を続けるというのが見通しだ。

     さらに、住宅・土地統計調査では空き家を「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」「二次的住宅(別荘)」「その他の住宅」に分けており、このうち空き家として問題になるのは、買い手や売り手を募集しているわけでもなく、そのまま放置されている「その他の住宅」だ。「その他の住宅」は18年、347.4万戸と空き家総数の41.1%を占め、前回13年調査から9.1%も増加している。

    (注)1998年までは賃貸用住宅に売却用住宅を含む (出所)総務省「住宅・土地統計調査」より編集部作成
    (注)1998年までは賃貸用住宅に売却用住宅を含む (出所)総務省「住宅・土地統計調査」より編集部作成

    法改正で転用容易に

     政府の空き家対策は加速してきた。空き家対策特別措置法に続き、昨年7月には都市部のスポンジ化対策として、改正都市再生特別措置法が施行。地権者の開発意欲が低く有効利用されていない空き家や空き地などの「低未利用地」について、地権者と利用希望者とを調整し、市町村が集約して有効活用できるような計画を策定できる制度を創設した。また、地権者などの同意を得た上で、所有権の移転など登記も市町村が一括でできる仕組みも設けた。

     さらに、空き家の活用促進として、改正建築基準法が6月25日に全面施行された。戸建て住宅を福祉施設や商業施設などに用途変更する際の規制を緩和。大規模な改修工事を不要としたほか、手続きも簡素化して転用を容易にした。深まる一方の空き家の悩みには、こうした法改正を活用しない手はない。東京都が今年3月、空き家の解決事例や基礎知識をまとめた「東京空き家ガイドブック」を作成するなど、自治体の取り組みも広がっており、市町村に相談するのも一案だ。

     空き家の悩みを先送りすれば、相続の発生などによってより一層複雑化する。解決に動くなら、少しでも早いほうがいい。

    (村田晋一郎・編集部)

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