テクノロジーファーウェイ大解剖

インタビュー 澤田翔 米国の華為制裁は進歩を阻害 技術の国籍識別に違和感

    澤田翔 エンジニア・連続起業家、インターネットプラス研究所所長 
    澤田翔 エンジニア・連続起業家、インターネットプラス研究所所長 

     米国政府による華為技術(ファーウェイ)に対する輸出禁止措置により、同社のスマートフォン(スマホ)に搭載されている基本ソフト(OS)「アンドロイド」が使えなくなるという懸念が広がっている。ファーウェイおよび同社製のスマホユーザーにどのような影響が生じるのか。トランプ米大統領が6月29日、輸出容認に言及するなど不透明なことが多いが、今後の推移を展望する上でいくつかの前提を理解する必要がある。

     まずアンドロイドは、世界中のエンジニアが貢献して作り上げた「オープンソース」と呼ばれる、利用や修正、頒布が、自由にできるプログラムであることだ。米グーグルが主導しているものの、韓国サムスンや米クアルコムなど多くの企業が関わっているプロジェクトで、グーグルが権利を独占しているOSではない。

     これとは別に、アンドロイドに搭載されているGmailやクローム(ブラウザー)などグーグルのサービスを利用するためのソフトウエア群であるグーグル・モバイル・サービス(GMS)を同社は提供している。グーグルは、すでに消費者に販売されたファーウェイのスマホに対しては、GMSのサポートは継続するとしている。

     既存機種に関しては、アップデートも継続されそうだ。今年リリース予定の新しいバージョンについて、輸出制限リストが出た直後にファーウェイ向けの先行リリースが取り下げられていたことがあって、開発者コミュニティーが騒然としたが、6月1日に復活した。

    輸出規制は開発後退招く

     グーグルとしても、どういうものが禁輸措置なのか測りかねているようだ。積極的にファーウェイを排除しようとしているのでなく、法令順守上の観点から禁輸措置の規制に触れないようにしながらできる限りのことをやろうとしているのだろう。

     グーグルのシステムを使わないスマホやデジタル機器は騒動の前からも多数ある。

     iPhoneやiPadはアップルが独自開発した「iOS」が採用されている。アマゾンは自社の映像サービスや書籍サービスを利用するためのハードウエアとしてKindle Fire(キンドル・ファイア)というタブレットやFire Stick(ファイア・スティック)というテレビ周辺機器を発売している。アマゾンはこれらのハードウエア向けにアンドロイドから独自に派生させた「FireOS」というOSを開発している。

     ファーウェイをはじめ中国大陸で販売されるアンドロイドのスマホやタブレットは、当地域でグーグルが消費者向け事業を行っていないこともあり、GMSが搭載されていない機種が大半を占める。

     ビジネス上の動機でグーグルのシステムを組み込まない選択は往々にしてあり、そこには大きな懸念はなかった。しかし、今回のように米国技術への依存を解消することが動機となった場合、従来にない問題が生まれてくる。

     ソフトウエア、ハードウエア、IP(知財ライセンス)などスマホを構成するほとんどの部品は世界中のエンジニアが協力して生産している。とりわけ現代のソフトウエア開発はオープンな開発体制を敷いていることが一般的だ。貢献者は複数の企業にわたるだけでなく、ボランティアで参加するエンジニアも多く存在している。共同作業で開発されたソフトウエアに正確な出自国を定めることは想定されていないのだ。

     アンドロイドだけでなく、スマホやサーバーで利用されるOSの核であるリナックス、AI(人工知能)を用いたソフトウエアの開発に使われるPython(パイソン)、Webサイトを訪問するときに使っているサファリやクロームなど多くのソフトウエアは世界中のエンジニアがオープンな体制で共同開発した成果を利用している。共同開発の成果は世界中誰でも利用できたことが近年のITの急激な進歩に貢献した。

     ここで貿易摩擦の影響によりオープンなプロジェクトへのリスクが顕在化した場合、ソフトウエア開発の体制はオープンからプロプライエタリー(占有的)なものへ逆戻りし、イノベーションの速度は確実に遅くなると言えよう。

    科学者の米国不信にも

     エレクトロニクス産業におけるサプライチェーンがアジアや欧州にも分散していることに対し、ソフトウエア産業は米国への集中が激しい。とりわけGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と呼ばれるITメジャーは全て米国企業である。一方、ソフトウエアはオープンな開発体制をとることで米国のみならず世界中のエンジニアの知見と貢献を得ることで大きく発展することができた。

     しかし、たとえオープンなエコシステムに育まれたソフトウエアであったとしても、米中の政策一つでソフトウエアの提供に重大な影響を及ぼしうるということが今回の対立で判明した。不安定な両国関係を見限り、第三国にオープンソースのプロジェクト登記移転を考える科学者も出てきた。

     中国と米国の分断が起きることにより、中国のみならず米国をはじめ世界中のソフトウエア産業に悪影響が及ぶことを懸念している。

    (澤田翔 エンジニア・連続起業家、インターネットプラス研究所所長)

    (構成=浜田健太郎・編集部)


     ■人物略歴

    さわだ・しょう

     1985年生まれ。慶応義塾大学環境情報学部在学中からエンジニアとして複数のITスタートアップ企業の立ち上げに携わり、2017年に独立。現在は中国・深セン市に住み、インターネットの社会実装をテーマにした「インターネットプラス研究所」を18年に設立。

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