経済・企業

住み続けたい上質な老人ホームを 下村隆彦=チャーム・ケア・コーポレーション社長 編集長インタビュー

チャーム・ケア・コーポレーション社長 下村隆彦  撮影=武市 公孝
チャーム・ケア・コーポレーション社長 下村隆彦  撮影=武市 公孝

── 介護付き有料老人ホームを展開しています。

下村 首都圏と近畿圏の都市部を中心に「チャーム」ブランドの老人ホームを展開しています。7月現在、首都圏は東京都に14カ所、近畿圏は大阪、京都府、兵庫、奈良県で37カ所運営しています。

── 特徴は。

下村 介護サービスは目に見えませんが、施設の雰囲気はごまかしが利きません。ホームの日常の雰囲気、職員によるあいさつや声掛けの徹底、施設内の清掃が常に行き届いていることなどサービスの質を大切にしています。航空会社の客室乗務員経験者などをコンシェルジュとして配置しており、入居者に寄り添うコミュニケーションや、接遇マナーの教育を担当してもらっています。最近は健康寿命を伸ばすプログラムを充実させていて、認知症予防やリハビリプランなど一人ひとりにあったサービスに力を入れています。また、祖業が建設会社ですから建物に対してはノウハウを持っています。施設ではなくて住まいを提供するという意識を持ち、快適な住空間を提供しています。

── 近年は高級路線の「チャームプレミア」を拡充しています。特に東京都渋谷区の高級住宅街、松濤に開業予定の施設は高額ですね。

下村 「チャームプレミアグラン松濤」(東京都渋谷区)を8月にオープンします。前払い金なしの場合は、月額家賃95万2400円、前払い金3900万円を支払うプランは月額30万2400円です。人生の残りの時間を充実して過ごすための「お客様の思いをかなえます」をコンセプトにしました。通常は介護職員1人で入居者2・5人から3人を担当しますが、この割合を1対1・5にしてサービスの質を高めます。例えばスタッフ同行の毎日の散歩や、気分に応じて選べる食事、個別のリハビリプランなど、これまでは人手や業務効率を理由に対応が難しかった要望であっても極力かなえるという方針です。

── 高額でも需要は見込めますか。

下村 富裕層の需要があるのも重要ですが、従業員の確保や質の高いサービス提供のために高価格帯のサービスを拡充させていく必要があります。介護事業の最大の課題はスタッフの確保です。利益を確保できないと従業員の給与水準が低くなり、優秀な人を採用できません。当社のホームは首都圏と近畿圏に集中していて、求人倍率が最も高いエリアなので、いかに介護職員を確保するかがとても重要です。

── 祖業は建設業ですが、62歳の時に介護事業に参入しました。なぜですか。

下村 30歳で祖父が創業した建設会社を引き継ぎました。不動産賃貸業と併せて経営は順調でしたが、還暦を迎えて人生を振り返ったとき、何か物足りないと感じました。社会貢献になり、今後も需要が強まる介護事業に参入しようと決心しました。

── 異業種からの参入で苦労が多かったのでは。

下村 新規参入で実績がないなか、土地を借りることすら難しく、自分で資金を借りて買うしかありませんでした。家族の反対もありましたが不退転の決意で挑みました。ただ経営の方法は同じです。対象地域にニーズはあるか、周囲にどういう施設がありどの程度の価格帯か、いくらに設定すれば投資としてペイするかなど、建設業や不動産業と考え方は一緒です。

── 介護業界の課題をどう認識していますか。

下村 高齢化が加速する環境で、これまでは介護ビジネスは何もしなくてもニーズはある、ある程度の利益は出るという幻想がありました。しかし、財政が厳しくなるなかで、介護保険に頼ってばかりのビジネスモデルは行き詰まるでしょう。介護付き有料老人ホームの開設は自治体による指定が必要で、介護報酬が固定額のため、サービス付き高齢者住宅などに比べて収益が見込みやすいのですが、それでも先を読んだ事業展開をする必要があります。

── 今後の計画は。

下村 中長期的に売上高500億円、運営数100ホームを目指します。「チャームプレミア」は20年6月期も首都圏で3ホームの開設を予定しており、今後の新規開設の中心となります。

 また大手デベロッパーと提携して、高齢者向けマンションを展開する不動産事業に参入する計画です。構想段階ですが、入居者が高齢となり介護が必要になった場合、弊社の介護サービスを利用してもらうことを考えています。入居者が亡くなったあとは中古物件として売却できるよう支援を行い、売れない場合には弊社が借り上げ、内装リフォームなどを施すなど付加価値をつけて入居者を募集する仕組みを検討しています。弊社が借り上げれば、その賃料収入をチャームの月額料金に充当してもらうこともできるので、選択肢が広がります。

(構成=吉脇丈志・編集部)

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 人生のなかで最も苦労した時代でした。祖父から事業を継承して会社を潰してはいけないというプレッシャーがありました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』と、ピーター・F・ドラッカーの著書です。著書にある「企業は賭けである。あらゆる事業のもくろみは闇の世界への飛躍であり」という文言は介護業界に飛び込んだときの信念です。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフと読書です。


 ■人物略歴

しもむら・たかひこ

 1943年生まれ。大阪工業大学工学部建築学科卒。69年4月下村建設株式会社入社。2005年4月に介護付有料老人ホームを開設、07年12月にチャーム・ケア・コーポレーションに社名変更。高知県出身、76歳。


事業内容:介護サービス事業

本社所在地:大阪市北区、東京都渋谷区

設立:1984年8月

資本金:6億8442万円

従業員数:1747人(2018年6月末現在)

業績(18年6月期)

 売上高:135億7298万円

 営業利益:10億5400万円

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