教養・歴史書評

記録に記憶が影落とす 同時代史の面白さ=本村凌二

 昨年3月末、早大を定年退職した折、私の最終講義は「ネロ帝と裕次郎」。ローマの歴史家タキトゥスの少年時代はネロ帝の治世、私の青少年時代は戦後最大のスターといわれた石原裕次郎の全盛期だった。その歴史を語ることは同時代になるのだ。

 ローマ共和政末期の歴史家サルスティウスも『ユグルタ戦争 カティリーナの陰謀』(岩波文庫、1070円)で同時代史を描く。ごく近い過去をふくむ現代の事件を俎上(そじょう)にあげ、その原因と結果を分析する。そこには自分の生きる「現代史」を冷静に見つめる歴史意識がある。

「ユグルタ戦争」は、前2世紀末、ローマの友好国ヌミディア王国の王位継承の内紛にローマが介入しておこった。戦場は北アフリカにあるヌミディア領内であり、ユグルタ王がローマ軍に屈して結末をむかえた。この戦争はサルスティウスの祖父の世代の経験であったが、後のヌミディア王権の滅亡を歴史家はカエサルの武将として目撃している。さらにその旧領を属州総督として治めたのだから、人ごとではなかったのだ。

残り490文字(全文927文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事