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かんぽ不正販売 不採算の郵便を金融で穴埋め いびつな構造が招いた不祥事=山田厚史

「客や現場の声を本社がくみ取れなかった」(長門社長=右)とも(左=日本郵便の横山邦男社長)
「客や現場の声を本社がくみ取れなかった」(長門社長=右)とも(左=日本郵便の横山邦男社長)

 かんぽ生命保険の不正販売問題で、長門正貢日本郵政社長らグループ3社の社長が7月31日、東京都内でそろって記者会見した。長門社長は「グループとして事案の評価が十分でなく、事態が深刻であるという認識を十分に持てなかった」と反省の弁を口にした上で「再発防止や信頼の回復などを実行するために陣頭指揮を執るのが、経営者の職責」と述べた。

 郵政グループは、郵便事業を担う日本郵便、貯金・送金など金融事業のゆうちょ銀行、保険事業のかんぽ生命保険の3社の上に、持ち株会社であり、全体を差配する日本郵政がある。2015年には日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が東京証券取引所に上場した。しかし、日本郵便だけは上場しなかった。郵政民営化後も、日本郵便にはへき地・離島を含め全国一律のサービスが義務付けられており、採算性に疑問符が付いたためだ。

 日本郵便は日本郵政の100%子会社であり、業績は日本郵政の株価に影響する。業績を支えているのが、ゆうちょ銀行やかんぽ生命からの受託手数料だ。2019年3月末でゆうちょ銀行から6006億円、かんぽ生命から3581億円の受託手数料を得ている。この手数料を確保するために、郵便局の現場職員には保険や投信の販売ノルマが課されていた。このノルマが不祥事の底流にある。長門社長も会見でこのことを認め、当面、かんぽ商品のノルマは課さず、営業指標のあり方も検討する方針を明らかにした。

 金融2事業へ過度に依存している事業構造も不祥事の底流にある。郵便貯金やかんぽ生命の資産は、かつては財政投融資や国債で運用すれば利益が出た。ところが、財投は廃止され、超低金利政策により国債も運用難だ。かんぽが「乗り換え」を奨励したのは、以前の高い金利の保険を解約させ、金利の低い新保険に客を誘導するためだった。

経営陣に株価の重し?

 日本郵政の長門社長は、「雇われ社長」に過ぎない。社長に選任したのは首相官邸で、実際に決めたのは金融庁の森信親長官(当時)とされる。長門氏は日本興業銀行(現みずほ銀行)出身で郵政と無縁だったが、実務能力を買われ、郵政民営化の仕上げを任されたのだ。その使命は、2022年度までに政府保有株を追加売却し、震災復興財源1・2兆円を稼ぎ出すことだ。株価維持には利益を上げなければならない。ところが超低金利政策で稼げない。それでも「金融環境が悪いから、上場を強行するのはやめよう」と決める実質的な権限は長門社長にはない。

 客の不利益を知りながら保険を販売した職員、ノルマを課した管理職、無理な営業目標を立てた経営陣。それぞれに責任はある。だが、全国一律のサービス維持という市場原理の外にある業務を定め、もうからない郵便局の経営を金融事業で埋める構造を作った政治、超低金利政策を取り続けた金融当局、郵政各社の人事を握る首相官邸や金融庁の責任を抜きに語れない。

(山田厚史・ジャーナリスト)

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