「次は自動車」焦る韓国 戦後最悪いつまで=浜田健太郎
7月、日本の精密部品メーカーに、韓国の現代自動車の購買担当から「3カ月分の在庫がほしい」とする連絡が来た。「普段は年間計画に基づいてインターネットで注文が来るが、その時は担当者が直接日本に来た。契約書がもらえないと韓国に帰ることができないと泣きつかれた」(精密部品メーカー関係者)という。
その現代自では上層部が「在庫をかき集めろ」と全社に号令を発しているという。なぜ3カ月分なのか。
「購買担当者によると、現代自はドイツや中国など日本以外から調達する態勢作りを急いでいる。品質が落ちるのは覚悟のうえ。もはや理屈ではなく感情で動いている」(同関係者)──。
日本の経済産業省が7月1日、半導体関連3品目(レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミド)の輸出手続きを厳格化したことは、国内総生産(GDP)の10%強を占める半導体産業を狙い撃ちしたと韓国側は受け止めた。
韓国政府からの強い制止にもかかわらず、日本政府は8月2日には輸出手続きの優遇対象から韓国を除外したことで、食品・木材を除く幅広い品目で手続きが煩雑な個別審査の対象になる可能性がある。「次の標的は自動車だ」──。韓国ではそう見られている。
歴史問題に起因して日韓両国の外交関係は改善と悪化を繰り返してきた(18ページ年表)。2012年に李明博大統領(当時)が竹島(韓国名独島(ドクト))に上陸して以降、日韓関係は、およそ良好とは呼べない基調が続いている。
背景には激変した日韓のパワーバランスがある。1990年、日本と韓国の1人当たりGDPは4倍近い開きがあったが、18年には1・25倍まで縮小(図1)。韓国の輸出先の割合では、00年には米国21・8%、日本11・9%、中国10・7%の順だったが、18年には中国26・8%、米国12%に対し日本は5%まで落ち込むなど重要度の低下が顕著だ(図2)。
個別の産業分野で見ると、かつては世界をリードした日本の半導体・電機産業が凋落(ちょうらく)する一方で、サムスン電子に代表される韓国のエレクトロニクス産業が半導体やテレビ、スマートフォンなどでグローバル市場を席巻している。
失われゆく補完関係
そうした中、日本は韓国に向けて切り札を突然つきつけた。サムスンが、3年前に株式時価総額でトヨタ自動車を追い抜き、2年前にインテルから半導体世界一の座を奪ったとはいえ、その事業基盤は日本の化学製品や半導体製造装置などが支えていることは貿易統計からも明らかだ(図3)。
日本の対韓貿易黒字が続く両国の産業構造を、日本優位の「主従関係」と捉える見方は、日本人の間に根強く存在する。徴用工問題のこじれから「反日」を先鋭化させる韓国に対し、今回の半導体部材の輸出管理強化を「反撃だ」として留飲を下げるのか。あるいは、両国の産業界が築いてきた補完関係が損なわれる危機と見るのか。どちらの立場を取るかで日本政府の措置に対する評価は分かれる。
韓国政府は日本の規制強化を契機に、半導体や自動車など基幹産業の素材や部品、装置などの開発を強化する方針を掲げており、成果を上げれば関連の日本企業は市場を失うリスクが生じる。
アジア経済が専門の日本総研上席主任研究員の向山英彦氏は、「韓国企業は日本の素材メーカーや部品メーカーにとっては重要な顧客だ。今回の措置で日韓の企業が築いてきた供給網にマイナスの影響を与える可能性がある点で、賢明とは言えない」と指摘する。
打撃を受けるのはモノづくりだけではない。現在の関係悪化が長期化すれば、昨年750万人を超えた韓国からの訪日客は大幅減少が確実と見られ、北海道などインバウンド需要で恩恵を受けていた地域への悪影響は避けられない。
「戦後最悪」に冷え切った2国関係。その出口を見いだすための日韓両政府の努力なしには、両国民の“絶望”が深まるばかりだ。
(浜田健太郎・編集部)