週刊エコノミスト Online 最新!信金ランキング2019
不動産向け融資 スルガ銀問題で急ブレーキ 金融庁アンケートに「衝撃」=佐々木城夛
信用金庫を含む金融機関の不動産向け融資が引き締まっている。貸出残高が伸び悩む中で、不動産向け融資は貸出残高を稼げる格好の業種だったが、スルガ銀行によるずさんな投資用不動産向けローンが昨年に表面化。金融庁が行政処分するなど厳しい方針で臨んだほか、金融機関に対して幅広く実態調査に乗り出し、金融機関が一斉に慎重な姿勢に転じた。不動産市況にも陰りが見え始め、その動向は予断を許さない。特集:最新!信金ランキング2019
日銀によると、国内の金融機関の不動産業向け貸出残高は2018年度末、101兆4000億円を記録、うち信用金庫も16兆8000億円となった。ただ、リーマン・ショック(08年)の影響が落ち着いた12年度以降、伸び続けていた不動産業向け貸し出しに急ブレーキがかかっている。特に14年度以降は前年度比3~6%台の増加を続けていたが、18年度は金融機関全体で0・3%増、うち信用金庫も0・2%増にとどまった。
人口減少による地域経済衰退に加え、日銀が16年2月から始めたマイナス金利政策が追い打ちをかけ、地銀や信金など業態も入り乱れて貸出金利のディスカウント競争が激化。薄くなった利ざやの下で貸出残高という“量”を追い求める中、融資1件当たりの残高が稼げた不動産業は格好の対象となった。専業不動産業者から給与所得者(いわゆる会社員)兼オーナー向けへと貸出先の対象が広がっていったことも必然的と考える。
不十分な審査の“イロハ”
そうした中でスルガ銀行の問題が発覚し、金融庁は昨年10月、今年4月までの6カ月間、新規の投資用不動産融資を停止する行政処分に踏み切った。加えて、金融庁は処分公表後の10~11月、当時の全国121銀行、261信用金庫、148信用組合に対して「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査」を実施したが、金融庁側の厳しい姿勢を示すことが十二分にうかがえる内容だった。
親族から相続した土地に建物を建てただけの案件も含め、不動産関連融資先すべてを調査対象とし、これらの経緯や契約書原本を漏れなく確認させられた衝撃は極めて大きかった。金融庁はアンケート調査結果を受け、金融機関に「事業性融資と判断される場合には、物件の生むキャッシュフローを基礎として融資全期間にわたる収支シミュレーションを行うこと」などの対応を求めたが、それが融資審査のイロハが不十分だったことを逆説的に裏付けている。
金融機関側では「会社員への不動産投資に関しては支援自体が難しい」と“入り口”での選別を厳格化している模様だ。折しも、首都圏の新築マンション発売戸数が今年7月、43年ぶりの低水準となるなど、不動産市況は曲がり角を迎えてもいるようだ。今後の市場動向を注視せざるを得ない。
(佐々木城夛、信金中央金庫 地域・中小企業研究所主席研究員)