週刊エコノミスト Online 日本生命が初開示 3年目の議決権結果
日産自動車、LIXIL… 企業統治に生まれた「緊張感」=大堀達也
生命保険や信託銀行、資産運用会社など国内株の機関投資家が今年8~9月、投資先の企業(2019年1~3月期決算)が今年4~6月に開いた株主総会で行使した議決権の結果を開示した。機関投資家向けの行動指針「日本版スチュワードシップ・コード」が17年に改定され、機関投資家が議決権行使結果の開示を始めて今回が3年目。今回からは民間では国内最大の機関投資家、日本生命も開示を始めた。
国内主要機関投資家13社の議決権行使結果について、賛否が分かれた主な企業の議案が72~76ページの表だ。国内主要機関投資家は、資産規模の大きい生命保険4社、信託銀行3社、運用会社5社に加え、国内最大の信託銀行である三井住友信託銀行が昨年10月、資産運用機能を統合した三井住友トラスト・アセットマネジメントの結果をまとめた。機関投資家別に反対票を投じた割合を見ると、投資期間が長い生命保険で反対比率が低い傾向にある(図)
日産自動車では今年9月、不当報酬問題を受けて西川(さいかわ)広人社長兼最高経営責任者(CEO)が辞任したが、今年6月の定時株主総会では西川氏の取締役選任案に13社中9社が「反対」していた。反対した日本生命は「不祥事等」を理由に挙げ、「経営陣の内紛などに端を発し、ガバナンス上の懸念が継続していると判断される」などの懸念のある人事案と説明する。西川氏辞任は取締役会が促したことが直接のきっかけだが、一部機関投資家の支持は得られていなかった。
また、不透明な人事を巡って経営が混乱したLIXILグループでは、会社提案の人事に対して瀬戸欣哉・元CEOらを推す株主提案も出され、会社提案の人事が一部否決されたり、株主提案の人事が可決される異例の事態となった。日本生命や住友生命が会社提案と株主提案の双方に賛成する一方、会社提案の人事に対しては三菱UFJ信託銀行や日興アセットマネジメントなどが反対票を投じており、少なからず影響があったことをうかがわせる。
賛否理由も開示へ
生保や運用会社など機関投資家は、生保の契約者や投資信託の購入者など「最終受益者」に代わって株式を運用しており、議決権行使結果の開示は株主としての権利を適切に行使しているかを最終受益者やステークホルダー(利害関係者)に示す大きな役割を果たす。コーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい田辺総合法律事務所の中西和幸弁護士は、議決権行使結果の個別開示について「機関投資家と投資先企業の間に良い緊張感を与えている」と評価する。
議決権行使結果の開示によって機関投資家には「あいまいな判断」が許されなくなり、投資先企業に投資家としての要求を伝えたり、経営課題を指摘したりする「対話」が求められる。ただ、中西氏は「いまだ形式的な対話に終始している機関投資家もある」という。対話の本質は投資先企業の持続的な成長や企業価値向上を促すことだが、単に投資先企業にROE(株主資本利益率)など特定の経営指標の達成だけを求めても、スチュワードシップ・コードの意義は見いだせない。
金融庁によれば、議決権行使結果を開示する機関投資家は100社を超えた。ただ、賛否の理由まで開示しているのは20社程度にとどまっている。金融庁は20年をめどにスチュワードシップ・コードを改定する方針で、新たに判断理由の説明を促す文言が加わる可能性が高い。機関投資家には一段の進化が求められることになりそうだ。
(大堀達也・編集部)