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週刊エコノミスト Online 大揺れ!香港・台湾・韓国

ファーウェイの混乱が波及 激震する東アジア成長の根幹=浜田健太郎

ファーウェイが発表した新型スマートフォン「Mate30」には、グーグルマップなどが非搭載。右端はファーウェイの消費者向けビジネスの責任者、余承東氏=ドイツ・ミュンヘンで9月19日(Bloomberg)
ファーウェイが発表した新型スマートフォン「Mate30」には、グーグルマップなどが非搭載。右端はファーウェイの消費者向けビジネスの責任者、余承東氏=ドイツ・ミュンヘンで9月19日(Bloomberg)

 <大揺れ! 香港・台湾・韓国>

「逃亡犯条例」改正案をきっかけに拡大したデモに揺れる香港で今年8月下旬、AI(人工知能)技術を駆使した顔認証システムを手掛ける中国の曠視科技(メグビー・テクノロジー)が香港証券取引所に株式上場を申請した。2011年に北京で設立された同社には、中国の電子商取引(EC)最大手のアリババ・グループが出資。デジタル先進国・中国を象徴する有力なユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場の新興企業)の一つだ。

 中国国内には2億台規模の監視カメラが設置済みとされ、「天網」と呼ばれる画像データが蓄積されたネットワークにメグビーの顔認証システムが採用されている。香港証取に提出された上場目論見書によると、18年に中国の監視カメラ網における顔認証システムの60%超のシェアを持つ。ただ、メグビーの上場申請は、香港では通常の経済ニュース以上のインパクトを与えたかもしれない。

 若者を中心にデモ隊の多くが顔をマスクやゴーグルで覆っているのは、監視カメラに顔を捉えられることで後に逮捕されることを避ける狙いがある。香港の地元メディアは9月、香港政府が、抗議活動への参加者がマスクを被ることを禁じる緊急法案を検討していると報道。中国共産党の機関紙『人民日報』海外版は9月18日、香港政府に「覆面禁止法」を促す論説を掲載した。

 だが、中国本土のユニコーン企業にとっては、上海証取が上場企業の時価総額で香港証取を上回るようになっても、香港は依然として重要な資金調達窓口だ。国際会計事務所のKPMGによると、香港証取は昨年、新規株式公開(IPO)調達額ランキングで2年ぶりに世界首位となった。スマートフォン大手小米(シャオミ)や出前サービス・美団点評など中国本土の大型上場が相次ぎ、IPOで369億ドルを調達して米ニューヨーク証取を上回った。上海と異なり世界に開かれた市場の魅力は大きい。

(注)中国、香港、日本、台湾の2018年、韓国の2017年以降はIMF推計 (出所)国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」(2019年4月)より編集部作成
(注)中国、香港、日本、台湾の2018年、韓国の2017年以降はIMF推計 (出所)国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」(2019年4月)より編集部作成

禁輸措置の影響顕在化

 ただ、中国本土のハイテク企業に対して警戒を強めるのが米政府だ。米ブルームバーグ通信は今年5月、メグビーなど中国企業5社について、米国製技術の利用を事実上禁止する「エンティティーリスト」に加えることを検討すると報じた。英調査会社IHSマークイット日本調査部の南川明ディレクターは「米国は軍事利用が可能な先端技術を持つ中国企業を徹底的にたたく決意で、監視カメラ、通信、スーパーコンピューターなどが対象だ」と指摘する。

 米政府が今年5月、エンティテーリストに載せたのが、香港に隣接する中国・深セン市に本社を構える中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)だ。ファーウェイが9月19日、ドイツで発表した新型スマートフォン「Mate30」は、5G(第5世代移動通信)に対応するものの、米グーグルのメールアプリ「Gメール」や地図アプリ「グーグルマップ」が非搭載となった。米国による禁輸措置の影響が顕在化してきた形だ。

 ファーウェイの昨年1年間のスマホ販売台数は2億台と、首位の韓国サムスン電子、2位の米アップルに次ぐ3位となり、アップルの背中も目前に迫る。中国と中国外で1億台ずつを占めるが、IHSマークイットは米制裁の影響で、今年の中国外のスマホ販売台数は前年比1300万台減の8800万台と予想する。南川氏は「Gメールなどグーグルのアプリに慣れたユーザーは多く、実際はもっと減るかもしれない」とみる。

 ファーウェイ製スマホの浮沈の状況は、メモリーを供給する韓国SKハイニックスや東芝メモリ(10月1日にキオクシアに社名変更)、「頭脳」に当たるアプリケーションプロセッサーの製造を受託する台湾積体電路製造(TSMC)など、アジアのハイテクサプライチェーンの主要な企業の業況に少なからぬ影響を与える。SKハイニックスの今年4~6月期の営業利益は前年同期比89%減、TSMCも同10%減となり、中国向けの需要減も響いたとみられる。

“ナイアガラ”の恐怖

 ファーウェイを中心とするアジアのハイテク企業群の共存関係の構図は、中国と香港、台湾、韓国そして日本との経済全体の関係と相似形だ。いずれも中国が最大の輸出先(18年実績)であり、中国経済の成長と減速に軌を一にするように成長率が推移している(図)。韓国では今年1~8月の中国向け輸出は前年同期比で16%、台湾では同7・1%(いずれも米ドルベース)それぞれ減少。香港では中国本土向け輸出が昨年11月以降、9カ月連続で前年割れだ。

 現代中国研究家の津上俊哉氏は、米中摩擦と中国経済減速の影響が深刻になってきたと指摘し、「サプライチェーンがグローバル化した中で、米中経済の切り離しが現実化している。先行き不透明なため新規事業や投資を控える心理が広がっており、実体経済はどんどん悪くなっているにもかかわらず、金融市場がそれを織り込んでいない。ナイアガラの滝に近づいているような恐怖感がある」と懸念を深める。

(浜田健太郎・編集部)

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