人生100年時代 侮れない「年金力」=下桐実雅子/桑子かつ代
昨年から年金の受け取りを始めた大和田英明さん(66)。現在も東京都内の私立大学で週5日、業務委託契約で働いている。
国民全員が加入する公的年金制度ができた1961年当時、男性の平均寿命は66歳、女性が70歳。55歳で定年退職すると、リタイア後は10年しかなかった。だが、今は違う。
大和田さんは「定年後10年なら(年金と)退職金があれば十分だった。今は人生100年時代だから、定年後35年ぐらい生きていくかもしれない。これからは70歳まで働かないと年金だけでは生活していけない」と語る。
寿命が伸びて定年後の生活が長く続くことになるが、将来、年金は本当にもらえるのか、漠然とした不安が広がっている。20代から40代までの若い世代では、一番頼りにする老後の生計を支える手段として「自分や配偶者の就労による収入」が「公的年金」を上回る(図1)。
とはいえ、現状、公的年金を受給している高齢者世帯(65歳以上)では、平均所得の約7割を公的年金が占めている。高齢者世帯の半数が年金だけで生活しており(所得のすべてが年金)、暮らしを支える基盤になっている(図2)。
少子化で生産年齢人口(15~64歳)は減少し続けると推計されており、保険料を払う働き手は減っていく。国では給付を確保していくため、就業者の増加や、短時間労働者らを厚生年金に加入させる適用拡大などを進めて「支え手」を増やしていく方針だ。
社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの高橋義憲さんは「支え手を増やすというと保険料を搾取するような誤解を与えがちだが、そうではない。厚生年金に加入することで老後の生活保障や、病気・けがなどで生活や仕事が制限されるときに受け取れる障害年金が手厚くなるなど、加入者本人のメリットになる」と訴える。
年金を巡っては、昨年4月、財務省の審議会で、原則65歳となっている支給開始年齢を68歳に引き上げる案が浮上、国民の不信感を助長したが、その後、根本匠厚生労働相が「ただちに引き上げは考えていない」と否定した。
現在、厚労省の部会で、年金の受け取り開始時期を70歳以降(現在は60~70歳まで)も選べるようにする改革が検討されているが、これを支給開始年齢と勘違いしている人もいるようだ。公的年金の仕組みはわかりにくく、誤解が生まれやすい。
(下桐実雅子・編集部)
(桑子かつ代・編集部)