週刊エコノミスト Onlineビジネスマンがはまる筋力トレーニング

週2回のトレーニングで成果 「筋肉はウソをつかない」=永浜利広

社内にトレーニングルームを備える企業も(半導体製造装置のディスコ、本社ビル内)
社内にトレーニングルームを備える企業も(半導体製造装置のディスコ、本社ビル内)

「筋力トレーニング(筋トレ)ブーム」が続いている。こうした流れは、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」にも表れており、2018年度のフィットネスクラブ利用者数合計は前年比1・7%増の2・57億人となっている。

特集:ビジネスマンがはまる筋トレ

 ただし、それ以上に増えているのがフィットネスクラブの事業所数である。この調査によれば、18年度は同5・9%増の1443事業所に達している。

 背景には働き方改革で会社員が仕事以外に使える時間が増えていることに加え、個人向けや24時間営業のフィットネスジムが急増していることなどが挙げられる。会社員が利用しやすくなっていることの影響が大きいだろう。

 こうした流れもあり、最近の傾向では、40~50代の会社員の間で筋トレが人気を集めているようだ。実際に、総務省の家計調査(18年)を使って、世帯主の世代別に見たスポーツクラブ使用料を比較すると、平均では前年から微減しているものの、30代後半から50代前半の、まさに働き盛りの世代に限れば、同支出が明確に増加していることが確認できる(図1)。

(出所)総務省
(出所)総務省

長く仕事ができるように

 恐らく背景には、「人生100年時代」の高齢化社会を生き抜く中で、できるだけ長く仕事ができるように、自らの健康管理の重要性が高まっていることがあると推察される。

 健康管理という意味では、ランニングなど他のトレーニングも考えられる。それなのに、なぜ筋トレがブームとなっているのだろうか。その理由の一つとしては、成果が目に見えやすいということがあろう。というのも、ランニングなどでは、ある程度の期間継続しないとなかなか体型的な変化は表れにくい。

 これに対して筋トレは、トレーニング直後でも筋肉が膨張することから成果が見えやすいという理由があろう。さらに、ランニングなどは頻繁に実施しないと成果が表れにくいが、筋トレは週に1~2回程度でも適度な食事制限をすると成果が表れやすい。こうした点が、ビジネスマンが取り組みやすい理由と考えられる。

 特に40~50代というと、年齢的に身体の衰えを実感し始める時期である。しかし、筋トレは年齢を問わずに始めることができる。加えて、40~50代のビジネスマンというと、ある程度、会社内での昇進などのポジションも見え始め、プライベートの生活も含めてどんなに努力しても思い通りにいかないことも増えてこよう。

(出所)国税庁
(出所)国税庁

広がる低糖質、高たんぱく

 こうした中で筋トレは、正しいやり方をすれば必ず目に見える成果をもたらす。そのため、自己達成感にもつながりやすいということも大きな要因の一つであろう。実践しただけ成果が得られるという意味において、「筋肉は裏切らない」のである。

 こうした筋トレブームは、スポーツクラブ以外の経済活動にも影響を及ぼしている。特に広がりを見せているのが、低糖質・高たんぱく食品ブームである。

 もともと糖質制限食は糖尿病治療食として始まり、合併症を予防できるなどの効果があった。ところが、米飯やパン、麺類などの炭水化物を減らし、代わりに肉類など他の食品を摂取するだけで手軽に痩せられるダイエットとして流行した。

 その後、適度な糖質制限は肥満や動脈硬化などの生活習慣病予防にも効果があることがわかった。さらに、ダイエットでカギを握るのが筋肉を維持して基礎代謝を上げることという認識が高まり、筋トレとともに低糖質・高たんぱく食品ブームとなっている。

 実際、外食産業でも低糖質メニューが提供されるようになり、以前はネット通販やスポーツクラブなどでしか入手できなかった低糖質・高たんぱく食品や飲料などの販売コーナーが、コンビニやスーパーなどに設けられるなど、市場が拡大している。

 こうした糖質制限ブームの影響は、酒類市場にも表れている。

 酒類は製造過程の違いで、(1)穀物や果実を酵母によってアルコール発酵させて造る醸造酒(ビール、ワイン、日本酒など)、(2)醸造酒を蒸留して造る蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、焼酎など)、(3)醸造酒や蒸留酒に果実や香料・糖分などを加えた混成酒(梅酒、リキュールなど)に分類される。糖質制限ブームで蒸留酒の糖質が低いことが認識されて以降、酒類全体が縮小傾向にある中でも、蒸留酒の市場は拡大を続けている(73ページ図2)。こうした動きも、アルコール消費量が多い中年ビジネスマンの筋トレブームの表れといえるのではないだろうか。

社会保障財政への効果

 先日、政府から公表された5年に1度の公的年金の財政検証によれば、メインシナリオの最終的な所得代替率(年金額/現役世代の賃金)は50・8%と、19年度時点の61・7%から、前回同様に約2割低下することが示された。

 しかし詳細を見ると、経済前提が前回より慎重化しているにもかかわらず、ここ5年間の女性や高齢者の就労増などにより最終的な所得代替率は前回対比上昇しており、年金財政は改善した形となっている。

 こうした中、将来の社会保障財政を考えたときに大きな山場となるのが、現在40代の団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になる40年代にかけてと言われている。このため、社会保障の担い手を増やすため、高齢者の就労長期化を中心とした施策を前に進めることが求められている。

 従って、今後も筋トレにはまる中年ビジネスマンが増加し、団塊ジュニアも含めて健康な中高年が増えていけば、医療費や社会保障費の抑制にもつながる可能性がある。さらに、筋トレ自体が認知症の予防につながるとの指摘もある。

 こうした側面も踏まえれば、筋トレブームは、ひいては日本の経済や社会保障財政にプラスの効果をもたらすかもしれない。

(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)


ランニングよりも、成果が出やすい
ランニングよりも、成果が出やすい

筋トレ実践記 体脂肪率が10%低下、体調も劇的改善

 私(48)が筋トレを始めるきっかけとなったのは、会社の健康診断だった。もともと先天的な高脂血症で薬を服用していた。ところが、ある年の健康診断で薬を服用していたにもかかわらず、血液検査で再検査になってしまった。

 このままではまずいと思い、何かしらの対策を考えていた時、オフィスの近くに格安のパーソナルトレーニングジムがあることを発見した。個人的には中学から高校の途中まで所属した陸上部で筋トレの基本は学んでおり、大学時代にも筋トレの経験はあった。

 しかし、せっかく取り組むなら一から学び直そうと2カ月通った。そこで、基礎代謝を上げるための筋トレのやり方や食事管理について簡単に学び直した。

 すると、驚くことに1カ月もたたないうちに劇的に成果が表れた。筋肉がついたのである。それに伴い体重が2~3キロ増えた一方で、ウエストは締まり、体脂肪率が実に10%以上も低下した。

 そして、再度血液検査をしたところ、担当医が驚くほどの改善を示し、服用する薬の量も減らすことができた。

母が認知症を発症

 さらに筋トレへの意欲を高める出来事が起きた。母親の認知症発症である。母親は父親と実家で2人暮らしだったため老々介護となり、その重い負担を目の当たりにした。その後、母親は介護施設に入所することになり、父親の精神的・肉体的負担は軽減したが、金銭的負担が大きい。

 両親のこうした苦労をみて、私の妻や子どもには同じような経験はさせたくないとつくづく思った。そんな時に、多方面から筋トレなどの無酸素運動が認知症予防に効果的という情報を入手し、筋トレに対する意欲は高まった。

 現在は、自宅近くの公営体育館で週1~2回ペースで筋トレを継続している。ランニングのように頻繁にやらなくても成果が出やいので続けやすく、筋トレをしている間は無心になることでストレス発散にもなる。

 ケガで陸上競技を断念する高校2年の初めまで体育学部志望だったこともあり、もともとスポーツ関連の知識には興味がある。このため、仕事が落ち着いたら筋トレの資格取得も検討している。

(永浜利広)

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