週刊エコノミスト Online インタビュー
松本正義 関西経済連合会会長 「形式ではなく実質を重視した企業統治必要」
企業統治の行動指針「コーポレートガバナンス・コード」が改訂されるなど、ガバナンス改革は強化の一途をたどる中、関西経済連合会が異議を唱えている。
(聞き手=藤枝克治・編集長/桐山友一・編集部)
── 9月26日に、中部経済連合会、九州経済連合会、北陸経済連合会と連名で意見書を発表し、コーポレートガバナンス・コードの一律の強化に反対しています。
松本 近江商人の経営哲学である「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」など、関西の企業はコーポレートガバナンスが言われるずっと前から、公益を重視した経営をしてきました。そうした経営をしてきた立場からすると、コーポレートガバナンス・コードの一律の強化には疑問が多い。関経連はそのような考え方を以前から訴えていますが、西日本の経営者も同じ認識です。地方の経済界には経団連とは違った考え方があり、我々から中部、九州、北陸に声を掛けてまとめました。
── 意見書では、「株主偏重の経営は企業の中長期的な成長を阻害する」と指摘しています。
松本 株主優先社会の米国でも、潮目が変わってきていますね。米国の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が今年8月、「株主第一主義」を見直す宣言を出し、JPモルガンやアマゾンのトップら181人が署名しました。そうした動きが日本でも報じられ、株主第一主義の行き過ぎを指摘する声も出ましたが、関経連はもうずっと前から同じことを言っていますよ。
── 四半期開示の義務付け廃止を訴えています。
松本 3カ月ごとの決算開示に企業は膨大な労力を投入していますが、投資家に果たしてどれほど利用されているのか。働き方改革の観点からも問題がありますよね。欧州連合(EU)では2013年に四半期開示義務が廃止され、米国でも見直しの動きが出ています。また、研究・開発は継続してやらなければならないのに、四半期開示によって経営者はどうしても短期的な利益を追求しがちになり、途中で研究・開発をやめてしまうことも少なくありません。
社外取は各社裁量に
── コーポレートガバナンス・コードの独立社外取締役の人数の規定についても、「各社の裁量に委ねるべき」との主張ですね。
松本 違った世界で生きてきた本当の人材を外部から呼び、アドバイザーとして親身にやってもらうのは非常にいいことなんです。ただ、人数が多いからといって必ずしも機能するものでもない。社外取締役は今、人材が払底し、10社ぐらい掛け持ちしている人もいます。我々はコーポレートガバナンス・コードをすべて否定するわけではありませんが、一律に形式だけ整えようとするのはやめてほしい。ほっといてくれ、という感じです。
── 取引先との関係強化を目的とした政策保有株式(持ち合い株式)については、企業に縮減の圧力がかかっています。
松本 「政策」と名前の付いている通り、企業が持つ政策保有株式には何らかの意図があります。他の企業と協同して何か事業ができないか、などを考えるうえで、株を持っていると何もないよりつながりが非常に強くなるんです。そもそも、経営者なら必要のない株はすぐに売っているはず。政策保有株式の保有目的を株主に説明することは基本ですが、保有の適否の検証結果をすべての銘柄について開示するよう求めたり、一律に縮減するという方向性まで示すべきではありません。
── 結局は経営者の資質ということですか。
松本 コーポレートガバナンス・コードでいくら形式を整えても、実力を持っている社長がいたら機能しません。最後の砦(とりで)はトップであるリーダーの資質。その経営哲学をしっかりと投資家に説明し、投資家と建設的に対話することこそが、持続的な企業価値向上につながると考えています。
KEYWORD コーポレートガバナンス・コード
東京証券取引所と金融庁が15年6月から、企業の持続的成長と中長期的な価値向上を目的に、上場企業に適用した企業統治(コーポレートガバナンス)の行動指針。「株主の権利・平等性の確保」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」など五つの基本原則からなり、企業に行動指針を順守するか、順守しない理由を説明することを求めている。昨年6月に改訂され、政策保有株式について「保有の適否を検証し、検証の内容を開示すべき」とするなど、さらに内容が強化された。
■人物略歴
まつもと・まさよし
兵庫県出身。一橋大学法学部卒業。1967年住友電気工業入社。常務、専務などを経て2004年社長。17年6月から会長。11年関西経済連合会副会長、17年5月から会長。