何ができるか 3エンタメ・ゲーム リアルタイム性でeスポーツ 多接続で音楽ライブに活用=小山安博
5Gは、高速大容量・低遅延・多数接続が特徴として挙げられる。この特徴はエンターテインメント分野でも威力を発揮する。例えばスタジアムに数万人規模の観客がいる状態で、目の前の試合のリアルタイム映像をスマートフォン(スマホ)で見る。そんなことを可能にするのが5G。キーワードは「リアルタイム」と「多数接続」だ。
新たな観戦・ライブ体験
エンターテインメント分野の5Gは、スポーツ、音楽、ゲーム業界で期待が寄せられている。日本での5Gサービスは、2020年の東京五輪をターゲットにして来春にもスタートする予定だが、今年に入って携帯キャリア各社が「プレサービス」として限定的なサービスを提供。そのプレサービスのメインとなっているのが、エンターテインメント分野だ。
NTTドコモはラグビーW杯、ソフトバンクはバスケットボール日本代表戦のそれぞれ会場で、KDDIはラグビー、楽天モバイルはテニスでそれぞれ遠隔への映像配信で5Gを使ったサービスを提供した。また、ソフトバンクは音楽フェスの会場で5Gの映像配信を行った。
ソフトバンクのプレサービスでは、バスケの試合会場内に複数のカメラを設置。観客のタブレットにその映像を配信して自由に視点を変えながら試合を観戦できるようにした。観客席から遠い選手たちの動きが、カメラによって身近に見られて、さらに自分でカメラを切り替えられるので、それぞれの観客が見たいシーンを見られる。通常の映像配信やテレビ放送と比べて、シュートシーンを見逃してもすぐに自分で操作して見返せるのも強みだ。
AR(拡張現実)への配信では、ゴーグル越しのリアルな映像に加え、視界に別視点のカメラの映像を重ねて表示していた。
同時に8K映像を伝送する実験も行われ、試合会場のカメラ3台が8Kという超高精細映像を撮影して、それを5G経由で遠隔地にストリーミング配信。KDDIは、J SPORTSが撮影した4K映像をラグビー会場から放送局まで5G経由で伝送して中継するシステムを構築。こうした映像配信は、従来大規模な有線環境が必要だったが、5Gによってワイヤレス化でき、より簡単に高精細映像の配信ができるようになる。
音楽イベントでは、ソフトバンクがFUJI ROCK FESTIVAL 2019の会場で5Gの映像配信を実施した。各会場の撮影映像をリアルタイムに配信して会場の混み具合を確認できる。また、VR(仮想現実)ゴーグルでライブ映像を見ながら、遠隔地の視聴者とVR内のアバターで交流するサービスを提供。遠くのライブ会場に足を運ばなくても、他の観客と一緒にライブを楽しむ体験を実現していた。
盛り上がりを見せるeスポーツをはじめとしたゲーム分野も見逃せない。eスポーツでは、リアルタイム性が重要なため、通常は会場内に光回線を張り巡らせ、Wi─Fi環境であれば通信の安定性にも気を配る必要がある。5Gになると、ワイヤレスで環境構築が容易になり、干渉も気にせずにリアルタイムの対戦が可能になる。
もう一つのキーワードが「クラウドゲーム」だ。ゲーム本体はサーバーに設置し、パソコン(PC)などからアクセスしてゲームをするクラウドゲームは、端末の性能の制約がなくなり、「PCと家庭用ゲーム機とスマホが同じゲームで同時に競う」といった新しい遊び方も可能になるだろう。
ボタンを押した瞬間にゲームが反応するためには遅延があってはならないが、5Gであればそうした問題もクリアでき、eスポーツのような場面でも十分に利用できるだろう。
音楽ライブやスポーツの試合は、数万人単位の人が一カ所に集まり、同時に通信を行う可能性があるため、今までは会場でスマホを使おうとしても通信速度が遅くなったり、接続できない人がいたり、活用が難しかった。しかし5Gになると、狭い範囲に100万台規模の端末が同時接続でき、安定した通信ができる。
通信料金体系も変わる?
5Gで現在の20倍、毎秒20ギガビット という通信速度が実現すれば、4K、8Kのような超高精細映像、大容量のグラフィックスのゲームといったコンテンツも高速でダウンロードできる。今までできなかったようなよりリアルな3D映像、360度映像といった臨場感のあるコンテンツもより広がっていくだろう。
エンターテインメント分野は、5Gで今後確実に拡大することが期待されている。逆に言えば、現在の携帯料金のような「データ使用量に応じて課金する」場合、一瞬で容量を使いきるか高額な通信料金になりかねない。そのため、料金体系も変わってくる可能性が高い。5Gの本格普及期にはデータ量ごとの課金ではなくなるだろう。そうなれば、本当の意味で5Gが新しい未来を実現してくれることになりそうだ。
(小山安博・フリーライター)