エクアドルもOPEC脱退 低下が止まらない求心力=柴田明夫
南米の産油国エクアドルのエネルギー・非再生可能天然資源省は10月1日、自国の経済再建を理由に、2020年1月1日付で石油輸出国機構(OPEC)を脱退すると発表した。エクアドルでは、17年に発足した中道左派のモレノ大統領が、19年2月に国際通貨基金(IMF)から42億ドルの融資を取り付け、傷んだ経済・財政の立て直しのために新たな経済プランを打ち出した。その際、緊縮財政策が条件となっていることから、原油を増産して国家財政を再建させるのが狙いと見られる。
エクアドルの経済は、南米の他国に比べて比較的安定していた。高い原油価格とドル化体制を導入することにより、経済は順調であった。しかし14年秋以降、原油価格が急落したのに続きドルが急騰すると、経済の脆弱(ぜいじゃく)性が露出した。前政権は、財政赤字を補填(ほてん)するために中央銀行からの借り入れを拡大。公共機関の債務はこの5年間で倍増し、外貨準備高は16年の37・8億ドルから、17年には16・78億ドルに半減した(図)。
そこで近年は、生産力の高い新規油田の開発や外国からの投資の積極的な呼び込みを通じて、自力で石油関連収入を増やすことに注力している。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、すでに中国は中国石油天然ガス集団や中国海洋石油集団などを介してエクアドルに5鉱区、確認埋蔵量1億4300万バレル、生産量で日量7・52万バレルを保有している。OPEC脱退を契機に、中国との投資関係は今後さらに強まると予想される。
カタールに続く
OPECは1960年9月14日、石油生産を独占する石油メジャーへの対抗組織として、サウジアラビアとベネズエラ両国の呼びかけで誕生した。当初の加盟国はイラク、イラン、クウェートを加えた5カ国である。その後、カタール、インドネシア、リビア、エクアドル、アラブ首長国連邦(UAE)が順次加盟している。OPECの目的は原油価格の安定である。そのための手段が、生産枠の設定とその順守率の組み合わせだ。
しかし、埋蔵量も生産能力も異なる加盟国間でそれぞれ思惑は異なり、足並みをそろえることは容易ではない。なかでも、常に高値を狙うイランに加え、埋蔵量が限られているベネズエラやインドネシアは強硬派(タカ派)として知られ、限られた原油をできるだけ高値で売りたいので増産には反対の立場をとる。
これに対し、生産能力や埋蔵量が豊富なサウジ、UAE、クウェートなどは穏健派(ハト派)だ。原油価格が高騰すると、世界景気が後退して石油需要の減退を招き、代替エネルギーの開発など、脱石油にシフトしてしまう。そのため高過ぎも安過ぎもしない適正価格の維持を求める。
OPECプラス恒久化
エクアドルは73年にOPECに加盟、93年1月に一度脱退し、2007年11月に再加盟している。今回のOPEC脱退は、今年1月のカタールに続く。カタールの原油生産量は日量60万バレル強であるが、液化天然ガス(LNG)の輸出では年間輸出能力7700万トンを超え世界最大である。エクアドルの場合はどうか。
OPECの9月月報では、8月のOPEC加盟14カ国の原油生産量は日量2974・1万バレルと4カ月連続で3000万バレルを下回った。サウジの産油量は同980・5万バレルで、3月以降は6カ月連続で1000万バレルを割っている。エクアドルの産油量は日量54万バレルで、OPEC加盟国のなかでは少量だ。
またBP統計によると、エクアドルの原油埋蔵量は18年時点で11億バレルであり、サウジの2977億バレルと比べると規模は小さく、同国の脱退がOPECや原油市場に直接与える影響は小さい。とはいえ、エクアドルは増産を計画しており、20年以降OPECの求心力低下は避けられない。
石油をめぐる地政学的変化もOPECの求心力を失わせることになりそうだ。サウジおよびUAE、クウェートなどの湾岸諸国は、ロシアなど10産油国を含めたOPECプラスへと重心を移している。OPEC加盟14カ国および非加盟10カ国は「OPECプラス」の枠組みを恒久化することで合意した。
BP統計によると、18年のOPEC産油量は日量3745万バレル(オイルサンド、コンデンセート、天然ガス液を含む)に対し、非OPECの産油量は同1822万バレルで、計同5567万バレルとなる(表)。これは世界全体の産油量同9471万バレルの6割弱に当たる。米国のシェール革命に対抗する新たな国際石油カルテルとしてのプレゼンスは強まりそうだ。
イランもベネズエラも
一方、OPEC内でイランの立ち位置は微妙だ。米外交問題評議会シニアフェロー(エネルギー担当)のエイミー・M・ジャッフェ氏は10月の米『フォーリン・アフェアーズ』誌で「現在のOPECはイランに対抗するツールとして利用されており、この組織の存在理由はさらに希薄化している」とコメントしている。
ロシアとの関係も変わった。10年前、湾岸協力会議(GCC)諸国は、ロシアと距離を置いていた。当時のGCC諸国にとって、イランこそOPECのタカ派として主要な存在であり、その動向に配慮せざるを得なかった。
だがいまや、イランはベネズエラ、ナイジェリアとならんで協調減産から免除されており、サウジやGCC諸国はイランの立場に配慮する必要がなくなった。現在はイランよりロシアとの関係を強化したいと考えている。
これは減産合意を通じて原油高に導き、歳入を増やす必要があるからだけではない。対露協調路線を通じてロシアとイランの間にくさびを打ち込むという地政学的思惑をもっているとジャッフェ氏は指摘する。
ロシアにとっても、米国のイラン制裁は、イランから欧州への石油と天然ガス供給を抑え込むことになるため、欧州市場のシェアをイランと競い合う立場から見れば利益と見なせる。経済制裁によって原油輸出がさらに追い込まれれば、イランはマーケットシェアを失うことだけでは済まなくなる。OPEC内部では、かつての穏健派と強硬派の対立から、イラン、ベネズエラなどの強硬派が分離・解体する可能性が強い。
(柴田明夫、資源・食糧問題研究所代表)