週刊エコノミスト Online勝つ 負ける地銀

与信コスト 6割の地銀が引当金積み増し 「粉飾倒産」は昨年の2倍に=坂田芳博

(出所)19年は1~10月 (出所)東京商工リサーチ
(出所)19年は1~10月 (出所)東京商工リサーチ

 企業倒産は2008年の1万5646件をピークに、18年まで10年連続で減少してきた。09年12月、中小企業の返済猶予に応じることを求めた「中小企業金融円滑化法」が施行され、劇的に倒産は抑制された。

リーマン後に次ぐ倒産増

 同法は13年3月に終了したが、その後も地銀は返済猶予に対応している。企業の資金繰りは、資金を調達できる限り業績不振だけでは行き詰まりにくい。

 地銀が業績不振の企業でも返済猶予に応じ、さらに政府系金融機関や信用保証協会が信用を供与する「制度融資」などでニューマネーを調達できる環境が倒産抑制に効果を生んでいた。

 だが、企業倒産には変化の兆しが出てきた。19年1〜3月期は前年同期比6・1%減、4〜6月期も同1・5%減だったが、7〜9月期は同8・1%増と増加に転じた。これは09年1〜3月期の同13・4%に次ぐ増加率である。

 東京商工リサーチが調べた25万社の12年間の業績推移では、07年度の売上高を100とすると18年度は100・9にとどまる。

 また、中小企業の18年度決算は増収企業47・2%、減収企業41・2%で、ほぼ拮抗(きっこう)している。そこに人手不足が一段と加速し、人件費の上昇が収益を圧迫している。

 このため、対外信用を糊塗(こと)するための粉飾決算や金融支援策で延命してきた企業の淘汰(とうた)が始まった可能性もある。全国地方銀行協会の笹島律夫会長(常陽銀行頭取)が11月の会見で、粉飾決算を取り上げた。19年1〜10月の粉飾決算による倒産は、18年同期の2倍、16件が発生している(図1)。倒産には至らないものの、支払い遅延や借入金延滞で粉飾決算が発覚するケースも急増している。

 粉飾に手を染めるきっかけは、さまざまである。

 従来は「海外での投資失敗の隠ぺい」や「赤字のため取引先から支払い条件が厳しくなった」といった要因が多かったが、最近は「税金滞納の解消のため」「代表者の相続税を支払うため」と事業継承や税金滞納に起因する時代を反映したケースが目立つ。

(出所)東京商工リサーチ
(出所)東京商工リサーチ

 これを見越すように地銀は、18年9月中間期から貸出先の倒産などによる貸し倒れ損失に備えた貸し倒れ引当金の積み増しに動いている。貸し倒れ引当金が増加した銀行は、18年3月期20行、18年9月中間期34行、19年3月期57行、19年9月中間期63行と、110行の約6割(57・2%)を占める(図2)。

正常先が債務超過

 これは(1)債務者区分の見直し、(2)貸し倒れ引当率の算定期間の長期化、(3)休廃業の決定による債務超過、保全不足の判明──などが背景にある。債務者区分の「正常先」は、貸し倒れ引当率の算定期間をこれまでの3〜4年から8年超に伸ばした。

 また、休廃業する企業の資産査定で正常先とみられたものが、実際は債務超過というケースも少なくない。

 16年2月、日本銀行のマイナス金利導入後、地銀は貸出残高の65・0%が金利1%未満という未曽有の事態に陥っている。この状況で信用コスト上昇は、一段と収益を圧迫する。金融庁の資料によると、18年度の業務収益が赤字は46行、このうち2期連続以上の赤字は45行を数える。貸し倒れ引当金の積み増しは、健全性を維持できる体力の有無を示すバロメーターにもなりつつある。

 19年9月に島根銀行、11月に福島銀行が、SBIホールディングスと資本・業務提携を締結した。福島銀は18年5月に東邦銀行元役員が頭取に就任したばかりだった。銀行が銀行を救済・再編する旧来の常識は、すでに通用しない時代を迎えている。

(坂田芳博・東京商工リサーチ情報部課長)

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