週刊エコノミスト Online勝つ 負ける地銀

ダメ地銀の「稼ぐ力」は落ちる一方=大堀達也/吉脇丈志

(出所)編集部作成
(出所)編集部作成

 <勝つ負ける地銀ランキング>

「基礎的な収益力が低下した。全体として厳しい環境を反映している」

 全国地方銀行協会の笹島律夫会長(常陽銀行頭取)は11月13日の記者会見で、同日までに公表された地銀各行の2019年9月期中間決算について総括した。

 今回の中間決算における第一地銀と第二地銀、全103行を合わせた純利益は、前年同期比で10%以上減少。全体の約6割が減益となり、5行が最終赤字に陥った。本業である貸し出しの金利利回りは、低下に歯止めがかからない。さらに日銀のマイナス金利政策による低金利環境の長期化や与信関係費用の膨張が、地銀の収益を押し下げている。

 本誌は、今回の中間決算の開示資料を集計し、銀行の貸し出しや手数料収入といった「本業のもうけ」を示す「コア業務純益(除く投資信託解約損益)」を調べた。

 銀行は本業の「貸し出し」で得られる金利収入のほかに、保有する株式や社債・公債、投資信託などさまざまな有価証券をから利益を得ている。したがって「本業のもうけ」を見るには、コア業務純益を見る必要がある。

 コア業務純益は、業務粗利益(国内外の資金利益や手数料収入などの合計)から人件費・物件費などの経費を除いた「実質業務純益」を出し、そこからさらに有価証券の売却損益や償却を除いたものである。

 ただ、従来のコア業務純益は、有価証券の売却益などは除かれるものの、投資信託から得られる利益のうち「運用期間中に、契約解除により得られる利益」(投資信託解約損益)は含むと定義された(正確にはコア業務純益を構成する資金利益に含まれる「有価証券利息配当金」に投信解約損益が計上される)。

 しかも、近年、その額は銀行業界全体で大きく膨らんでおり、コア業務純益に含んだままでは「本業のもうけ」を正しく表す指標とは言えなくなった。

 そこで金融庁は今年度から地銀各行に対し、有価証券利息配当金に含まれる投信解約損益を除くことで“お化粧”を剥がした状態、つまり、より「本業のもうけ」に近い数値を公表するよう求めた。

 今中間決算のコア業務純益(除く投信解約損益)を見ると、18年9月期比で減少した地銀が103行中72行にも上った。つまり、過半数の地銀が19度年上期に本業のもうけを減らしていたわけだ。

(注)数値は銀行単体ベースで、▲はマイナス。収益力(ROA)は、{(コア業務純益〈除く投信解約益×2)÷総資産}×100で計算(コア業務純益を2倍したのは半年の数値のため)。コア業務純益は一般貸し倒れ引当金繰り入れ前の業務純益から国債等債権損益を引いたもの。そこから投信解約益を除いたものを使用。総資産とコア業務純益は億円未満は切り捨て。収益力(ROA)は小数点第3位以下、コア業務純益の対前期比は小数点2位以下を四捨五入。銀行名のカッコ内は親会社で、FGはフィナンシャルグループ、HDはホールディングス、FHはフィナンシャルホールディングスの略 (出所)各地銀の2019年9月中間決算資料より編集部作成
(注)数値は銀行単体ベースで、▲はマイナス。収益力(ROA)は、{(コア業務純益〈除く投信解約益×2)÷総資産}×100で計算(コア業務純益を2倍したのは半年の数値のため)。コア業務純益は一般貸し倒れ引当金繰り入れ前の業務純益から国債等債権損益を引いたもの。そこから投信解約益を除いたものを使用。総資産とコア業務純益は億円未満は切り捨て。収益力(ROA)は小数点第3位以下、コア業務純益の対前期比は小数点2位以下を四捨五入。銀行名のカッコ内は親会社で、FGはフィナンシャルグループ、HDはホールディングス、FHはフィナンシャルホールディングスの略 (出所)各地銀の2019年9月中間決算資料より編集部作成

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1億円使って稼ぎ22万円

 本誌は、地銀の「収益力」を測る指標として“「総資産」に対する「コア業務純益(除く投信解約損益)」の比率”を算出し、ランキングした(表)。この比率は「総資産収益率(ROA)」に当たる。今回算出した103行のROAの平均値は0・22%だった。また、従来のようにコア業務純益に投信解約損益を含めて算出した「旧ROA」の平均値は0・24%だった。

 この水準を高いと見るか、低いと見るか。ROAとは、「地銀が保有するすべての資産を使って、どれだけ稼いでいるか」を測る指標である。

 例えば、総資産1億円のA銀行のROAが0・22%であれば、A銀行は“1億円を使って22万円しか稼げなかった”という意味だ。マネックス証券の大槻那奈チーフ・アナリストは「数千億〜数十兆円という規模の資産を使いながら、ROAが“ほぼゼロ”に近い銀行が、第二地銀を中心に多数ある。地銀の課題がここに現れている」と指摘する。

 ROAが前年同期比で低下した地銀は103行中74行に上っている。地銀の本業の「稼ぐ力」は低水準に沈んでいるばかりでなく、落ち続けているのだ。

 個別に見ると、トップになったのは1・16%のスルガ銀行だった。同行は昨年の中間決算で17年ぶりの赤字に転落したが、今中間期は黒字に転換。ただ、「貸出金利息」の減少などによって資金利益が対前年同期比115億円減少したことを主因に「コア業務純益(除く投信解約損益)」(以下、コア業務純益)が同32・5%減と大幅減となったことが響き、ROAは前年同期比で低下した。

 それでもスルガ銀のROAが唯一1%台を維持しているのは、同行の稼ぎ頭である投資用不動産向け融資から上がる金利収入が大きいためだ。同行は18年に不動産向け不正融資が発覚し、昨年10月に金融庁から一部業務停止を命じられたが(今年4月に解除)、ストックはいまだ大きく、高収益モデルが機能している。とはいえ、「コア業務純益の減少幅が大きく安心はできない」(銀行アナリスト)。

資本業務提携を結んだ島根銀の鈴木良夫頭取(左)とSBIHDの森田俊平専務取締役
資本業務提携を結んだ島根銀の鈴木良夫頭取(左)とSBIHDの森田俊平専務取締役

「有価証券」頼み

 2位の千葉銀行は中小企業向け融資は好調だったが、貸出金利息収益が前年同期比0・3%減、貸出金利回りも同0・06ポイント低下したのに加え、融資先の倒産に備えた与信関係費用の増加がROAを前年同期比0・019ポイント押し下げた。

 同行がランキングで上位に入った一因に、総資産の大きさがある。大規模行は、営業経費の粗利益に対する比率(経費率)を相対的に低く抑えられる“規模のメリット”が働きやすい。これは、4位で最大手の横浜銀行や5位の静岡銀行、7位の常陽銀といった有力地銀にも言える。

 ただ、横浜銀はコア業務純益が前年同期比0・6%増と横ばいにとどまった。有価証券の売却益が含まれる実質業務純益は7%増だったことから、本業の貸し出しよりも有価証券売却益の寄与が大きいことがうかがえる。一方で与信費用が増えたほか、中小企業向け融資が低調だったことが、千葉銀との差につながったようだ。

 有力地銀に割って入った3位の徳島銀行は、全国81拠点のうち東京都に4店舗、大阪府に6店舗を置く“大都市シフト”を鮮明にしている。東京では蒲田(大田区)や亀戸(江東区)など中小企業の集中する地域に支店を構える。「融資先がない地元でなく、ニーズが山ほどある大都市圏を掘り起こした結果だ」と、銀行業界に詳しいマリブ・ジャパンの高橋克英氏が指摘する。

 経費率が高い小規模行のROAは低くなる傾向があるが、「総資産に対する融資額の割合が大きいと高く出やすい」(金融アナリスト)という。こうした地銀の中には「貸し倒れリスクを取ってでも、融資を増やしているところもある」(同)。

 ランキングで「ワースト3」となった長崎銀行(マイナス0・02%)、福邦銀行(同0・08%)(非上場、福井市)、島根銀行(同0・14%)は、いずれもコア業務純益とROAがともにマイナスに沈んでいる。特に福邦銀は4期ぶり増収増益だったが、肝心のコア業務純益はマイナス1億7300万円である。一方で、従来の「投信解約損益を含めたコア業務純益」は前年同期比約43%減だったものの、9700万円を確保した。

 つまり、債券の売却益など「有価証券の運用」でしか利益を上げられない同行の実態が浮かび上がる。同行の9月末の預金残高は3月末比93億円減の4224億円、貸出金残高も同48億円減の3025億円と本業を取り巻く状況はますます悪化している。

 最下位の島根銀は、コア業務純益がマイナス2億8300万円とマイナス幅が際立っていた。投信の運用損を計上したことで、中間決算は最終赤字に転落した。本業以外でリスクを取りに行って失敗したことに苦境が現れている。

早期警戒制度

 低収益・低金利にあえぐ地銀各行は、程度の差はあれ、有価証券の運用によって利益率を“かさ上げ”してきた。

 福邦銀以外にも投信解約損益への依存度が高い銀行が、新旧ROAの比較から浮き彫りになる。地銀に詳しい金融アナリストは、「依存度が高い銀行の特徴として、投信解約損益を加味する旧ROAでは平均(0・24%)以上だが、加味しない新ROAでは平均(0・22%)未満で、かつ新旧ROAの差が大きい」と指摘する。

 利益率のかさ上げは、地銀のステークホルダー(利害関係者)を不安にさせる。本業以外で過度なリスクをとる可能性があるからだ。経営の不安定さは、金融システムリスクにさえなり得る。

 金融庁は、今後経営悪化が懸念される金融機関に早めの経営改善を促す「早期警戒制度」の対象となる銀行を、スクリーニングする際の指標の一つとして「コア業務純益(除く投信解約損益)」を導入した。

 具体的には、預貸金利息など、いくつかの財務指標から注意を要すると判断された金融機関について、将来のコア業務純益が、(1)継続的に赤字になる、または(2)最低所要自己資本比率を下回る──ことなどが見込まれる場合には、金融庁が立ち入り検査を実施し、結果次第で業務改善命令を出すとしている。

無風状態が招いた窮地

 体力や収益力の低下は、再編を促す圧力になる。

 福邦銀は9月、同県の福井銀行と資本提携も含めた包括連携の検討を開始すると発表。島根銀も9月、SBIホールディングスと資本・業務提携を結んだ。

 かつての都市銀行、信託銀行、長期信託銀行といった大手行は、メガバンクを含む七つに再編された。信用金庫の数は1990年代から4割、信用組合は6割減った。一方で、地銀だけが“無風状態”を許されてきた。その無風が地銀の成長を阻み、いまの苦境へと追い込んだ。

 今後、地銀は「持続可能な収益性と将来にわたる健全性」(金融庁)が問われることになる。そこで“成功パターン”を見いだせるかどうかが、勝負の鍵を握るだろう。

(大堀達也・編集部)

(吉脇丈志・編集部)

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