陸海空、宇宙、サイバー空間で中国は軍事力を誇示し続ける=小原凡司
2019年10月1日、建国70周年を祝う軍事パレードで、北京の天安門前を行進した中国の最新鋭兵器の数々は衆目を集めた。なかでも、4個の情報作戦部隊は、中国人民解放軍がネットワークを中心とした戦闘を展開し、サイバー空間における優勢を獲得する能力を誇示するものだ。さらに、SF映画に出てきそうな形状をしたステルス無人偵察機と攻撃機は、中国軍が、ネットワークを基礎に、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ・マネジメント、AI(人工知能)などの技術を用いていることをうかがわせるものだ。
米本土を射程のICBM
しかし、中国共産党が並べ立てた最新鋭兵器は、米国に戦争を仕掛けるための道具ではない。軍事パレードで中国が最も強くアピールしたのはDF─41大陸間弾道ミサイル(ICBM)である。
射程は1万2000~1万5000キロで、米国本土をすっぽりカバーできる。1基で最大10発の弾頭を搭載でき、それぞれの弾頭は別の都市を狙える。しかも多弾頭化されているため現在のミサイル防衛システムで、迎撃することが難しい。DF─26対艦弾道ミサイルやDF─17極超音速兵器も関心を引いた。これらの兵器の射程では米本土をカバーできないが、中国に接近する米海軍空母打撃群や、在日米軍基地、グアム島の米軍基地を狙うことができる。
こうして見ると、中国は、仮に米国が中国に対して軍事力を行使しても、これに対抗し排除する能力があることを示したかったと言える。「中国に戦争をしかけたら痛い目を見るのは米国の方だ」と米国を威嚇するのだ。これは、中国に対する軍事力行使を米国に思いとどまらせたい、という意図の裏返しでもある。
しかし、米国に対して受動的であるといっても、中国の軍事力が地域と国際情勢に影響を及ぼさない、ということにはならない。
なぜなら、中国は、「米国の妨害を排除する能力」を、中国国民に対してだけではなく、支持を得たいと考えている開発途上国などに誇示し、中国ブロックを形成しようとしているからだ。
すでに中国は、経済的影響力を行使し、新疆ウイグル自治区における人権侵害などに関して、多くの開発途上国などに中国の政策を支持する態度をとらせている。しかし、これらの途上国は、いかに中国の経済的影響力が大きくなっても、中国が米国の軍事力に簡単に屈するようであれば、中国支持をちゅうちょするだろう。中国は、自らが国際社会から孤立せず、経済成長を続けるためにも、米国の妨害を排除できる軍事力を誇示する必要があるのだ。
その中国が重視するのが、インド洋から地中海にかけての軍事プレゼンス(存在感)の強化である。その任を担うのが空母打撃群だ。中国海軍は、ウクライナから購入して修復した訓練空母「遼寧」を運用しており、「遼寧」を改良した初の国産空母である001A型空母の海上公試も行っている。さらに、上海江南造船所で2隻目の国産空母となる002型空母が建造中であることが確認された。002型の2番艦は、建造計画の延長が報じられたが、早ければ2年以内に建造が開始されるようだ。
「遼寧」は18年夏から約半年をかけて大規模改修を行っており、中国海軍が「遼寧」を作戦艦艇として運用するという分析もある。もし、「遼寧」が作戦艦艇となり、002型空母の2番艦の建造が21年に開始されれば、中国海軍は30年には4隻の空母を運用する可能性がある。
これら空母を中心とした空母打撃群を構成する大型艦艇も尋常ではない速度で建造が進む。世界最大級の駆逐艦である055型駆逐艦、中国版イージスとも呼ばれる052D型駆逐艦、汎用(はんよう)の054A型フリゲートを、それぞれ、年平均2~3隻建造しているのだ。052D型にいたっては、19年中に6隻も進水している。空母打撃群を展開できるようになれば、南アジア、中東、アフリカに対する中国の軍事プレゼンスは格段に向上するだろう。
中国は、空母打撃群の展開に先駆けて、インド洋における潜水艦の活動も活発化させている。13年4月、インド国防部機密文書が「中国潜水艦がインド洋における活動を活発化させ、インドの安全に対する脅威となっている」と述べていたと報じられた。
16年9月と11月には、スリランカのコロンボ港に中国の潜水艦が入港したのが確認されている。こうした中国の活動に加え、16年後半に、パキスタン海軍が、中国海軍潜水艦のグワダル港への配備に言及していたことが、インドの危機感を煽(あお)る結果を生んでいる。
衛星、海底ケーブルも
こうした中国の世界的な軍事活動を支えるのが通信・情報ネットワークである。15年11月に決定された軍の改編に伴い、同年末に設立された戦略支援部隊は、宇宙、深宇宙(地球からの距離が200万キロメートル以上の宇宙)、ネットワーク、サイバー空間における優勢を確保し、人民解放軍の作戦を有利に進めることが主要任務であるとされている。
中国は、20年に30基の衛星をもって「北斗」衛星測位航法システム3号システムを完成させるという。3号システムは、世界中の地域で、測位誤差10メートルを達成するとされる。「北斗」システムは、米国のGPS(全地球測位システム)同様、民間にも開放されているが、軍事作戦に不可欠なものだ。
衛星だけではない。17年ごろから中国は国際海底ケーブルの敷設にも積極的に関与し始めた。衛星も海底ケーブルも、ネットワークを構成する重要な要素である。習近平主席は、17年5月に実施した一帯一路サミットにおいて、デジタル・シルクロードを建設すると宣言した。中国の管理下に置かれるネットワークが世界に広がる可能性があるのだ。
中国は、人民解放軍の支援を得て、市場や地理的空間だけでなく、サイバー空間においても中国ブロックを形成しようとしているかに見える。中国の「軍民融合」は、技術の流用だけではない。外交も軍事も、そして民間の活動さえも全て中国共産党の管理下にある。
それでも中国は、現段階では米国との戦争に勝利できないと考えている。米国の圧力を受け恐怖にかられる中国は、20年も軍事力を増強し続けるだろう。米国が価値観やイデオロギーを持ち出して対決姿勢を明らかにするなか、中国は、国際社会から孤立しないためにも、自らの力を誇示し続けるしかないのだ。
(小原凡司・笹川平和財団上席研究員)