eスポーツ 相次ぐ非ゲーム系企業の参入 地方創生の起爆剤としても期待=岡安学
関連銘柄 トヨタ自動車、SMFG
ここ2~3年で市場が急拡大している「e(エレクトロニック)スポーツ」という分野がある。コンピューターゲームやビデオゲームを使ったスポーツ競技のことだ。最近はメディアでも話題になることも多くなった。
日本国内における2018年のeスポーツ市場の規模は、約48・3億円(図)。国内ゲーム市場が約1兆6000億円であることを考えると、市場規模としてはまだ小さいというのが現状だ。しかし、17年の約3・7億円から1年で13倍にも膨れ上がり、今後も毎年20%近い成長率が見込まれる。22年には約99億円に到達すると予測されており、4年で2倍以上の市場になる計算だ。市場規模以上に成長率に魅力があると言える。
「5G」の恩恵
関連銘柄(表)は、eスポーツの実績が大きく影響を及ぼすまでには至っていない。とはいえ、eスポーツの種目タイトルを開発するカプコンやコナミHD(ホールディングス)傘下のコナミデジタルエンタテインメント(コナミ)のような企業、動画配信プラットフォームやインフラ設備を提供するサイバーエージェントやJストリーム、イベント会場の設営や機材レンタルに力を入れる西尾レントオールなどは、今後の市場拡大とともに注目すべきだろう。
また、通信業界では20年から開始される「5G(第5世代移動通信規格)」に注目が集まっているが、5Gの効果がもっとも顕著に表れるのがゲームとされている。スマートフォンのコンテンツの中で、ゲームは遅延による影響がもっとも出るカテゴリーのひとつで、低遅延を売りとしている5Gはゲーム向きの通信規格だと言える。大規模なeスポーツイベントでは多くの参加者が同時接続することもあるが、その点についても同時接続数が4Gの10倍とされる5Gの恩恵を受けられる。したがって5Gが普及することで、ゲーム環境、eスポーツ環境が現状とは大きく変わり、それらを使う端末や周辺機器、サービスなどもeスポーツにけん引されて市場が拡大していく可能性が高い。
高額賞金が発生するeスポーツイベントの数も年々増えており、18年末に開催されたサイゲームスのシャドウバースというタイトルの世界大会では、優勝賞金が100万ドル(約1億1000万円)と、大いに話題を集めた。他にはミクシィが主催する「モンストグランプリ」も賞金額が年々上がっており、19年は賞金総額1億円、優勝賞金4000万円となっている。
トヨタやANAも参入
eスポーツは基本的に、ゲーム会社が自社タイトルのプロモーションの一環として行うものだが、最近では興行としての魅力も備わってきたためか、運営にゲーム会社以外の企業が参入している。
「実況パワフルプロ野球」を使って、実際のプロ野球のようにペナントレースのリーグ戦を行う「eベースボール」という大会では、開発会社であるコナミが主催しているが、同時にNPB(日本野球機構)も共催として運営に関わっている。NPBは他にも任天堂の「スプラトゥーン2」のeスポーツイベントも主催する。
また、吉本興業はライアットゲームズの「リーグ・オブ・レジェンド」の日本リーグ、「リーグ・オブ・レジェンド・ジャパン」の運営に参加しており、19年のリーグ戦は渋谷にあるヨシモト∞ホールで行われた。
スポンサーとしても非ゲーム系企業の参入が目立つ。18~19年のeベースボール優勝決定戦「e日本シリーズ」では、プロ野球の日本シリーズを協賛している三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)のSMBCがそのつながりからスポンサーになっており、19~20年の今シーズンはペナントレースから協賛している。
モンストグランプリでも、19年はトヨタ自動車や文芸春秋がスポンサーとして加わった。トヨタ自動車は、優勝賞品としてゲームの人気キャラクターをデザインしたカローラを提供。文芸春秋は、刊行物のスポーツ雑誌『Number』でeスポーツの話題を取り上げており、大会の取材と雑誌の宣伝を兼ねる目的もあったようだ。
他には、日清食品HDやコカ・コーラボトラーズジャパンHD、おやつカンパニーなども、自社製品の宣伝などの目的でeスポーツに参入している。
eスポーツは他のスポーツ競技と同じように、プロ選手やプロチームが存在しているが、選手・チーム単位でのスポンサー支援も増えている。たとえば、プロチーム「デトネーション・ゲーミング」は、以前からau(KDDI)やUCCなどがスポンサーになっており、19年になって全日本空輸(ANA)やシャープとの契約も発表された。また、カプコンの「ストリートファイターV」で活躍するプロ選手「ときど」氏は、ロート製薬と個人スポンサー契約を結び、CMにも出演した。
市場規模がまだ小さいにもかかわらず、これだけの企業が参入し始めている理由は、話題性はもちろん、eスポーツが近年まれに見る若者中心の文化であるためだ。各所で「若者離れ」が叫ばれ、将来の消費の行く先が見えなくなっているなか、現状を打破するために若年層に刺さる有効なリーチ方法を模索している企業が多く、その手段のひとつとして考えられているのがeスポーツというわけだ。
今後は、eスポーツの関連商品も多くリリースされていくと思われる。すでに江崎グリコのポッキーは「ストリートファイターV」と、カルビーのじゃがりこは「モンスターストライク」とのコラボ商品を発売し、inゼリーを販売する森永製菓もゲーマー向けのゼリー飲料を発売している。eスポーツがリアルスポーツと同様の発展を遂げるなら、チームや選手のグッズ、プロデュース商品などの展開で、マーチャンダイジングが活性化することも考えられる。
NTT東日本が事業化
eスポーツは新たな事業の創設や、廃れゆく事業の立て直しの起爆剤になるとも考えられている。その目的で事業展開を始めたのがNTT東日本だ。
各地にある事業所と遅延が少ない専用回線網を利用し、時間や手間をかけずに会場やインフラを用意。オンラインで配信するイベントや、大会の会場と地方のパブリックビューイング会場をつなぐ中継システムなどを提供する。20年にはeスポーツ事業を専門とする子会社を設立する予定で、NTT東日本が自治体と子会社をつなげる役割を担い、大会の企画や運営は子会社が担当する。
すでに地方創生の一環として、eスポーツを取り上げている地方の自治体や団体も多い。地元のゲーム好きが集まるコミュニティーなどで、以前からゲーム関連のイベントを行っている事例も多く、開催のハードルがそこまで高くないというのが理由だ。
実際に地方創生の結果が出ている自治体もある。大分県別府市では同市の協力のもと、参加者が自分の好きなゲームを持ち込んで交流しながら、温泉街の観光資源を生かして足湯や卓球なども楽しむことができるイベントを開催。予想を超える参加者があった。
また、富山県でも16年に数人のゲーム仲間が集まって開催していた大会を発展させ、地酒を飲みながらゲームができる酒蔵を会場にするなど、地元の魅力が伝わるようなeスポーツイベントを企画。現在は来場者が3000人に迫る、北陸最大のイベントに成長している。参入企業も徐々に増え、今は地元のテレビ放送局や観光協会、26の企業が協賛している。
この実績を受けて、他の地方でも追随する様相を見せている。
(岡安学・デジタルライター)