テクノロジー自動車革命で伸びる会社

素材に勝機 内装・旭化成、タイヤ・JSR、電池・デンカ=澤砥正美

    旭化成は新素材を使った試作車を開発(Bloomberg)
    旭化成は新素材を使った試作車を開発(Bloomberg)

     自動車産業で起きているCASEという変革は車体の材料を供給する化学メーカーにとって間違いなくチャンスである。

     自動運転が発達すると、車内空間は運転以外の活動を行う「第2のリビング」となる。カーシェアが本格化すると人によって車内空間のニーズは変わり、高級感のあるリビングや仕事場、娯楽場などにもなる。座り心地、消臭、防汚など多様化するニーズに対応することが重要になり、抗菌素材や汚れが落ちやすい素材、室内の臭いを感知するセンサーなどケミカルテクノロジーが生かされてこよう。また、電気自動車(EV)ではエンジン音が静かになり、走行音の原因の一つであるタイヤノイズが気になるため、ノイズを消す吸音素材などの開発に化学技術が貢献する。

     化学メーカー大手はそろってモビリティー事業へ経営資源を投入している。国内最大手の三菱ケミカルホールディングス(HD)はフォーカスする市場の一つにモビリティー(自動車・航空機)を定めており、三井化学も重点領域の一つにモビリティー事業を定める。

    M&Aで抜け出す旭化成

     自動車シフトに積極的な旭化成は2016年に自動車関連の横断組織「オートモーティブ事業推進室」を設立し、17年には自社製品を搭載したEVのコンセプトカー「AKXY(アクシー)」を発表した。

    (出所)筆者作成
    (出所)筆者作成

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     同社は15年にリチウムイオン電池(LiB)用セパレーター大手の米ポリポアを買収したほか、18年には米自動車内装材大手のセージ・オートモーティブ・インテリアズを790億円で買収した。セージの買収により同社の持つ人工皮革「ラムース」などの素材バリュエーションとセージの高い品質力・デザイン力をベースに自動車メーカーへ内装およびシートデザインなどを提案していく戦略で、自動車内装材メーカーで世界首位を目指す。

     帝人も18年に自動車向け吸音材で世界大手の独ジーグラーを買収し、快適性や制音性を追求した自動車向け内装材のグローバル展開を加速する方針だ。

     カーシェアが本格化してくると、内装材の耐久性や快適な車内空間といった特性に加えて、省燃費、EVの航続距離延長や急速充電なども求められる。

     自動車のタイヤは、省燃費性に加え耐摩耗性や耐久性の向上が不可欠となるなか、JSRは乗用車タイヤ用に強度と耐摩耗性、耐久性を大幅に改善した新たなSBR(スチレンブタジエンゴム)を開発した。同社独自の分子設計技術と水素添加技術を組み合わせた材料をトレッドゴムの素材に使用したタイヤは、従来の省燃費タイヤ向け合成ゴム「S−SBR(溶液重合SBR)」搭載タイヤに比べて、低燃費性能とグリップ性能を維持したまま耐摩耗性を約50%以上改善することが可能になる。

     そのほか、EVの急速充電においては熱が多く発生し、熱によるLiBの著しい劣化が問題視されている。デンカがハイブリッド車(HV)用途で世界シェア6割程度を有する「球状アルミナフィラー」(酸化アルミニウムの充填(じゅうてん)剤)は、LiBに組み込まれた「放熱シート」の中に混ぜ込むことで、シートの熱伝導率向上に大きく貢献する。将来の需要拡大に対応し、同社ではシンガポール工場で球状アルミナの生産能力を21年上期に18年度比5倍に拡大させる見込みだ。

    リサイクルにらむ三井

     日本では高齢化社会を迎えるなか、国土交通省は2人乗り小型EVを公道で自由に走らせられるよう、20年初めにも制度を改正する見通し。従来は車としての位置づけが不明確で、1台ずつ個別に検査を受ける必要があったほか、走行も自治体が許可した区域に限られていた。

     小回りが利く1、2人乗りの小型EVは、スピードが抑えられており高齢者の移動手段に適しているほか、都市部や観光地での近距離の手軽な足としても需要が見込まれている。

     20年度から購入費用の一部を補助する動きのなか、トヨタ自動車は19年10月17日、超小型のEVを、20年冬に日本で発売すると発表した。2人乗りで買い物などの日常の近距離移動での活用を想定する。発売する超小型EVは全長が約2・5メートル、幅が約1・3メートルでシンプルなデザイン。最高時速は60キロで、1回の充電で約100キロ走れる。

    未来の小型EVはリサイクル素材が中心になる(Bloomberg)
    未来の小型EVはリサイクル素材が中心になる(Bloomberg)

     このような小型モビリティーには軽量化素材として部材向けにプラスチックが多く使われると想定されるため、小型モビリティーの普及によりプラスチックの使用量は拡大が予想される。現在、自動車1台当たり60キロ程度搭載されるポリプロピレン(PP)材料は、需要拡大に対して将来はリサイクルが求められよう。日本では自動車リサイクル法に基づき、廃自動車から金属が回収され、その後の残滓(ざんし)(シュレッダーダスト)からは廃プラスチックが回収されている。

     廃プラはシュレッダーダストの約30%を占め、そのほとんどは燃料として利用されており、自動車材料への再利用は行われていなかった。この廃プラ再利用に向け、PPコンパウンド(中間材料)世界大手の三井化学は、自動車会社などと共同で、シュレッダーダスト中の廃プラを分解して化学原料に変換(原料油化)するリサイクル技術の開発を進めている。

     同社は世界初となるバイオPPを開発中で、最短で24年の生産開始を目指している。ケミカルリサイクルでは、独BASFがリサイクルの難しい複合素材のプラスチックを熱分解プロセスにより合成ガスや分解油に転換するケムサイクリングと呼ぶプロジェクトを始動させるなど、欧州の「循環型経済」に向けた取り組みが先行しているが、日本でも同様の動きが今後加速してくると予想される。

    (澤砥正美・SBI証券シニアアナリスト)

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