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中国 EV牽引役は民が主役に 恒大の「500万台」計画=湯進

    テスラの中国新工場のセレモニーに登場したイーロン・マスクCEO(Bloomberg)
    テスラの中国新工場のセレモニーに登場したイーロン・マスクCEO(Bloomberg)

     不動産開発中国第2位の恒大集団(エバーグランデ・グループ)は2019年に約5兆円を投資し、電気自動車(EV)生産に参入した。「3~5年で世界最大のEVメーカーとなり、10年後には年産500万台に達する」と許家印会長が目標を掲げた。

     これまで中国のEV政策は政府が主導してきたが、ここに来て民間、しかも自動車メーカー以外の、資金力豊富な大企業の参画が相次いでいる。米EVメーカーテスラも、上海市近郊に巨大工場「ギガファクトリー3」を建設、生産開始するなど、外資系企業もシェア拡大を狙っている。<自動車革命で伸びる会社>

    移動革命はEVから

     昨年11月、広州で「グローバルパートナーサミット」を開催した恒大集団は、世界の大手自動車サプライヤー60社と戦略的提携を結んだ。今後3年間で約7000億円を投資し、欧州高級車メーカー複数社のデザイナーが手掛ける自社EVブランド「恒馳」を20年に投入し、21年中に量産する予定。EV事業の後発組である恒大集団が、EVメーカーや電池メーカー、モーターメーカー計9社を買収し、グローバルで企業提携やサプライチェーン全般の構築などを示した。

     従業員9万人を抱える恒大集団は中国280都市で810件超の不動産プロジェクトを展開し、19年の売り上げは約10兆円。資金力だけではなく、国内外の有力企業860社以上の事業パートナーと築き上げたネットワークや都市開発ノウハウは同社の強みだ。今後は自社製EVや標準化された充電システムを都市開発やスマートシティーに応用し、独自のエコシステム構築も視野に入れている。

     再生可能エネルギー業界からもEV参入の動きがある。中国エンビジョングループは、日産自動車からAESCを買収し、中国でEV年産40万台分のリチウムイオン電池工場を建設するほか、金融や不動産を主力事業とする中国大手複合企業の宝能投資集団が、まず奇瑞汽車から観致汽車(Qoros)を、また長安汽車から長安PSA(長安汽車と仏PSAの中国合弁)を買収し、中国で複数のEV産業パークの建設を発表した。

     中国政府が13年からEV補助金支給制度を始め、先に電動化シフトにかじを切った。企業のEV生産義務など一連の促進政策により、中国のEV販売台数は12年の1・2万台から、18年の125万台へと、100倍に急成長した。EVの性能を左右するリチウムイオン電池業界にも追い風となり、中国の出荷量は19年に5年連続で世界最大となった。

     EVの個人ユーザーの割合は全体の5割で、残りはタクシー配車やシェアリングなど運営車両で使用されている。中国ではスマートフォンのアプリケーションを介する移動サービスの利用が増加することにより、タクシー配車サービスの年間利用者数が15年の延べ42億人から18年の延べ200億人へと増加し、タクシー利用者全体の36%を占めるようになった。

     巨大なモビリティー需要を見据えて、12年に配車サービスを開始した滴滴出行(ディディ)は、中国配車サービス市場シェアの約9割を占めており、首汽約車、神州専車など大手レンタカー企業、自動車メーカー各社傘下のモビリティーサービス企業が配車サービスに参入し、ディディを追いかける。

     現在、中国のカーシェアリング企業は約400社、運営車両は20万台に達した。北京首汽集団傘下のGoFun出行、上海汽車傘下のEVCARDが業界首位を争っている。ただ、ディディは既存の交通手段と競合するため、高い運営コストが事業の足かせとなり、赤字体制から依然脱出できていない。競合他社も高い投資・運営コストを背景に、同事業の収益力アップが課題だ。多くの企業は収益力が弱いため、地方政府の補助金やファンドからの資金調達により事業を継続している。

     それでも、今後は中国人の自動車に対する所有意欲が減退する可能性があり、それがカーシェアリング関連サービス市場拡大を後押し、そこで使われるEVが増えていくと考えられる。

    「スマートシティー」へ

     中国では、EV産業チェーン、インターネット通信網、有力なIT企業の存在など自動運転市場を育成する基礎条件が整う。自動運転技術の進展は交通事故の減少と交通渋滞の緩和をもたらすものであり、またそれによる新しい産業の形成も期待させる。

     政府が18年1月に発表した「スマートカーイノベーション戦略」では、20年に新車販売の50%をスマートカーとし、条件付き運転自動化の自動運転車を実用化するとしている。さらに25年にレベル4自動運転のスマートカーを実用化し、35年には中国が世界のスマートカー強国になる目標が掲げられている。政府が18年4月に自動運転車の公道試験を認可するガイドラインを施行した。

     19年6月末時点、北京、上海、重慶、広州など18都市で、自動運転試験場が整備され、197枚の公道試験専用ナンバープレートが発行された。

     先行するバイドゥが複数の都市で試験ナンバープレート96枚を取得したほか、ドイツのBMW、ダイムラー、アウディも取得した。

    筆者が訪れた江蘇省無錫市には、工業・情報化省、公安省、江蘇省が18年に設立した「国家スマート交通総合テスト基地」が運営され、19年には中国で初となる自動運転の走行試験専用の高速道路が完成した。全長4・1キロのテストコースでは、22カ所に監視カメラが設置され、障害物・歩行者の識別と反応などをテストしている。

    実用化もしているバイドュの自動車運転バス(筆者撮影)
    実用化もしているバイドュの自動車運転バス(筆者撮影)

     北京から南に、車で2時間ほどの距離にある「雄安新区」が、35年までに東京都のほぼ8割の面積にあたる約1700平方キロを開発する計画だ。環境配慮型・スマート化交通システムを特徴とする「未来のスマートシティー」の構築を目指している。現在、テンセントやアリババが同区と提携し、ビッグデータ・ニューラルネットワークを軸とするインフラ整備を行い、バイドゥは同区で自動運転車の公道試験を実施している。今後外資企業を含む他業種にまたがる企業が現地に進出し、スマートシティーの構築を進めるだろう。

     中国の「CASE革命」が目指しているのは、AI(人工知能)・IT技術を備えたスマート交通やスマートシティーの建設になり、それを軸にして、EVやスマートカーの生産、自動運転の開発が推進されると考えられる。

    (湯進・みずほ銀行法人推進部主任研究員)

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