週刊エコノミスト Online自動車革命で伸びる会社

損保会社が狙う 自動運転時代の事故予防サービス=吉脇丈志

 クルマの自動運転化が進みつつあるなか、自動車保険も事故が発生してから対応を行う従来の形から「事故を予防するサービス」へと、その役割を変えようとしている。

 大手損害保険の損害保険ジャパン日本興亜は、自動運転の見守りサポート施設「コネクテッドサポートセンター」を2018年9月に設置し、遠隔監視の実証実験を行っている。

(出所)損保ジャパン日本興亜の資料を基に編集部作成
(出所)損保ジャパン日本興亜の資料を基に編集部作成

 無人の完全自動運転車が遠隔で操縦される状況を想定し、全国に複数箇所ある実証実験地域で、実験車を走行させ、それを同センターのオペレーターがモニターで監視する。実験車からは(1)車両情報、(2)(実用化になった際に車両を運行する会社など)運行管理者の情報、(3)乗客・積載情報、(4)トラブル状況や支援要請──などがデジタルデータとしてセンターに上がってくる。車両が走行中に事故に遭ったり、故障したりするとセンターが速やかに現場に近い消防署・警察やロードサービス、レッカー会社などと連携する仕組みを構築しようとしている(図)。ITで保険ビジネスを進化させた「インシュアテック」である。

保険料から手数料へ

 損保会社がこうした取り組みを進めるのは、自動運転の普及に伴い、自動車保険分野の収益が激減し従来のビジネスモデルが成り立たなくなる可能性があるからだ。同社の18年度正味収入保険料のうち、63%を自動車保険(自賠責保険を含む)が占めている。近年は自然災害の増加から火災保険の保険金支払いが増加していることもあり、収益面でも自動車保険がけん引している。

 しかし自動運転が普及し、また自動運転のレベルが上がれば事故の発生件数は大幅に減少する。保険金支払いの減少は保険料収入の減少につながり、売り上げもおよそ半分程度に落ち込むと予想される。大量の配置人員も不要になり、自動車保険の規模が大幅にしぼむ。損保会社は自動車保険に依存しているビジネスモデルを大きく変えざるを得ない。

 同社リテール商品業務部の新海正史リーダーは「保険商品としての収入から、リスクアセスメント(リスクの分析や管理)サービスの手数料を収入にするモデルに変化していく。収益の柱になる可能性がある」と話す。

 契約者から保険料を受け取るモデルから、行政や自治体、交通業者などからサービス手数料を受け取る形に変化していく計画だ。

 クルマのインシュアテックに同社が先鞭(せんべん)を付けたのは、まったくゼロから新規参入する会社に比べてアドバンテージがあるからだ。自動運転ではどのような条件下でシステムを作動させるかという「ODD」(Operational Design Domainの略で「運行設計領域」)の設計が重要になる。

 保険会社は過去の事故対応で蓄積された膨大なデータを持っているので、どこでどんな形態の事故が多く発生するのか、自動運転中の危険度を予測することができる。どうすれば事故のリスクを減らせるかに加え、ルートによって自動走行の向き不向きの提案もできる。

 あいおいニッセイ同和損害保険も、自動運転バスなどの走行中の事故・トラブル時のサービス構築のため、提携する群馬大学内に「次世代モビリティ事故・サービス研究室」を設置。19年3月に小豆島で自動運転車トラブル時のデモを実施し、運行管制センターとの連携を想定した事故時の初動対応の検討を行っている。

 損保業界の自動車ビジネスは、事故防止の安全対策として遠隔操作や監視サービスなどの収益化を進め、それでも発生する事故に対しては保険商品でカバーするモデルへと進んでいく可能性がある。今後は、自動運転の遠隔操作を事業として行うために、保険会社に旅客自動車運送事業を認めるなど制度改革が焦点になるだろう。

(吉脇丈志・編集部)

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