テクノロジーAIチップで沸騰! 半導体

GAFAも開発に参入 AIチップの8兆円市場=津田建二/編集部

    AIでは米エヌビディアの画像処理用半導体(CPU)が先行していた(Bloomberg)
    AIでは米エヌビディアの画像処理用半導体(CPU)が先行していた(Bloomberg)

     米アップルが今年1月、人工知能(AI)ベンチャー「Xnor.ai(エクスノア・エーアイ)」を約2億ドル(約220億円)で買収したと米メディアに報じられた。米西部ワシントン州のシアトルに拠点を置くこのスタートアップ企業は、カメラなどの端末上でAIを動かす技術に強みがあり、太陽電池で発電したりする少ない電力でも画像認識を実行できるAIチップを開発していた。 特集:AIチップで騒然!半導体

     こうしたハードウエアの技術は、スマートフォンなどの端末の顔認証や音声認識といったAIの機能をより効率的に高めることができ、アップルにとって市場に送り出す製品の競争力の源泉になる。実際、アップルと合わせGAFAと呼ばれるグーグル、フェイスブック、アマゾンといった米IT大手が今、こぞってAIチップの自社開発に乗り出し、しのぎを削っている。

    省エネ性能の競争へ

     もともとAIの計算処理に使われるチップでは、米エヌビディアが開発する画像処理用半導体(GPU)が圧倒的に先行していた。AIの機能の中心をなす深層学習では、膨大な数の掛け算と足し算(積和演算)を並列して繰り返すが、GPUには積和演算器が多数集積されているため、うまく流用できたからだ。ただ、AIに特化して作られていなかったため、特化することでより消費電力が少なく高性能な半導体チップを作ろうという動きが出てきた。これが「AIチップ」の開発競争の源流だ。

    グーグルが開発した「TPU」は改良を重ねた(グーグルラウンドのフェイフェイ・リー・チーフサイエンティスト)=2018年7月(Bloomberg)
    グーグルが開発した「TPU」は改良を重ねた(グーグルラウンドのフェイフェイ・リー・チーフサイエンティスト)=2018年7月(Bloomberg)

     最初の口火を切ったのはグーグルだ。16年5月、エヌビディアのGPUよりも消費電力が1ケタ小さいAIチップ「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」を開発し、15年から自社のクラウド(インターネット上のデータセンター)で検索エンジンに使っていたことを明らかにした。

     省エネの鍵となったのは、演算精度を16ビットから8ビットへ半分に落としてもAIの性能はほとんど変わらず、消費電力は1ケタ小さくなるのを見いだしたことだった。TPUはその後も改良を重ね、18年にはクラウドでなく、端末に組み込む「エッジTPU」も発表している。TPU以降、性能に支障ない範囲でいかに演算精度を下げて消費電力を抑えるかが、開発競争の中心になっていった。

     アップルも、17年9月に発表した「iPhoneⅩ(アイフォーン・テン)」に、顔認証などを素早く実行するために自社開発した「ニューラルエンジン」を搭載したAIチップを初めて導入。その後も、昨年9月に発売したiPhone11にも、さらに高性能化させたAIチップを使っている。

     アマゾンも、傘下でクラウド事業を展開するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が18年11月、自社のクラウドで使うAIチップを発表。フェイスブックも19年2月、音声認識用のAIチップを自社開発する方針を明らかにしている。このほか、電気自動車(EV)大手の米テスラも17年、自動運転の技術を進展させるのを目的にAIチップの自社開発に乗り出し、19年4月にお披露目した。

     米国だけでなく、華為技術(ファーウェイ)やアリババ集団といった中国企業も独自のAIチップの開発を進めている。

    (注)主なAIチップを発表年月順に挙げた。他にも多くあり、すべてのチップを挙げているわけではない (出所)筆者作成
    (注)主なAIチップを発表年月順に挙げた。他にも多くあり、すべてのチップを挙げているわけではない (出所)筆者作成

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    投資マネーも急増

     AIチップのようなロジック(演算・制御用)半導体はこれまで、米インテルやクアルコム、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)といった半導体メーカーが開発を主導してきた。それが今、そうした半導体メーカーにとどまらず、GAFAやテスラまでがこぞってAIチップの自社開発に乗り出している。

     その一つの要因として、AIをはじめとするコンピューターシステムでは、消費電力の大きさが自社製品を開発する上で、致命的な影響を及ぼしはじめたことが考えられる。多くの電気を使えるデータセンターでも、消費電力が大きいと他の回路をそれ以上、集積できなくなり、機能も性能も上がらなくなる。そこで、自社の事業に特化したAIチップを開発することで、省エネ化するとともに性能を向上させ、競争力を高めようという狙いだ。

     こうした企業の姿勢は、1970年代にパーソナルコンピューターという概念を生み出し「パソコンの父」と言われる計算機科学者、アラン・ケイ氏の「ソフトウエアに本気で取り組む人たちは、自分でハードウエアを作りたくなる」という言葉がよく言い表している。パソコンの草創期にハードとソフトの両方の知識が必要だったように、現在のAIブームでもソフトとハードの両輪の進化が必要とされているのだ。

    (注)業界団体「Global Semiconductor Alliance(GSA)」が半導体ベンチャーが公表した資金調達額をまとめた調査 (出所)GSAの資料より筆者作成
    (注)業界団体「Global Semiconductor Alliance(GSA)」が半導体ベンチャーが公表した資金調達額をまとめた調査 (出所)GSAの資料より筆者作成

     AIチップ熱の高まりは、投資マネーも呼び込んでいる。シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)の間ではここ10年以上もの間、半導体への投資が伸び悩んでいたが、17年ごろから急激に増えた(図1)。半導体の業界団体グローバル・セミコンダクター・アライアンス(GSA)の調査では、17年6月期(16年7月~17年6月)からの1年間で、半導体ベンチャーへの投資額は約5倍に増えた。

     この投資件数の大半はAIチップの開発ベンチャーに対するものだった。米エレクトロニクス業界誌『EEタイムス』によれば、世界のAIチップの開発メーカーは昨年の時点ですでに40社以上あったが、現在はさらに増えているとみられる。

    市場規模は「14倍」に

    (出所)Tracticaの推計より筆者作成
    (出所)Tracticaの推計より筆者作成

     AIチップの市場規模も、急拡大が見込まれている。市場調査会社トラクティカは、AIチップの市場規模が18年の51億ドル(約5600億円)から、25年に726億ドル(約8兆円)と約14倍に膨らむと推計。出荷数も18年から25年にかけて約18倍に急増すると予測する(図2)。

     AIチップへの投資では、既存の大手半導体メーカーも負けていない。エヌビディアの後じんを拝していた米インテルは16年、AIチップメーカーの米ナバーナ・システムズを買収し、取り込んだ技術を基に、AIチップを開発。19年12月にもイスラエルのAIチップメーカー、ハバナ・ラボを約20億ドル(約2200億円)で買収した。また、米ザイリンクス社は18年、中国のAIチップベンチャー、ディーファイ社を買収している。

     こうしたAIチップのスタートアップ企業は、拡大をしながらも変化を続ける市場で、いち早く主導権を握ろうと、柔軟な発想で「大逆転」を狙う。米スタートアップのセレブラスは19年8月、「学習」の機能に特化した大きなAIチップを披露した。チップなのに21・5センチ四方という世界最大級の大きさだ。

     セレブラスによれば、従来のように半導体チップ同士を何個も接続させる手法では性能や消費電力に無駄が生じるため、一つの巨大なチップにまとめることで省エネ化。処理性能を向上させたことで「AIの学習時間を従来よりも大幅に短縮できる」とする。東京エレクトロンデバイス(横浜市)が昨年12月、日本の販売代理店となり、このチップを搭載したAIの学習用コンピューターの受注を始めた。

    日本もエッジで巻き返し

     これまでAIチップは「学習」用や、学習を基にして未知のデータを判断する「推論」用も、主にクラウドに搭載され、米中がけん引してきた。クラウドで学習や推論を行った結果を、インターネットにつながったスマートフォンやセンサーといった端末側(エッジ)に送るのがおおまかな構図だったが、チップが高性能になるにつれエッジ機器にも搭載させる流れへと変わってきている。

     すでに、アップルや中国ファーウェイがスマホにAIチップを搭載させているが、今後は自動運転やロボットなど幅広い機器に拡大することが見込まれる。エッジ機器に組み込まれる推論チップの市場規模は、学習用よりも早いスピードで膨張していると考えられるが、その覇権を握る企業はまだ現れていない。ここに、センサーなどのエッジ機器に強みを持つ日本企業にも、大きなチャンスが訪れている。

     ルネサスエレクトロニクスは15年12月、エッジでAI処理を行う「e−AI」を提唱し、産業機器などに組み込んで推論処理を行う小型で低消費電力のAIチップを開発した。クラウドで学習させたデータをAIチップに実装し、物体を判別する画像認識などに使うという。

     日本のスタートアップ企業も意欲的だ。ゲームなどの画像処理に使うGPUのコアを開発してきたディジタルメディアプロフェッショナル(DMP、東京都中野区)は、自動運転やカメラなどに使われる推論用チップのコアを生み出したほか、トヨタ自動車と自動運転車の共同開発を進めるAIベンチャー、プリファードネットワークス(東京都千代田区)は、自社の研究開発用に学習用のAIチップを形にした。今春には、このAIチップを搭載した自前のスーパーコンピューターを稼働させる予定だ。

     米中企業の先行が目立ったAIチップ開発だが、日本企業にも巻き返しの機会は十分にある。

    (津田建二・国際技術ジャーナリスト)

    (編集部)

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