内需と供給網に懸念も 市場は「春の終息」見込む=編集部
米イランの軍事衝突沈静化もつかの間。今度は、中国発の新型コロナウイルス(肺炎)の流行が、世界の株式市場を直撃している。
米ダウ工業株30種平均(NYダウ)は1月17日に史上最高値を付け、3万ドルをうかがう展開だった(図1)。しかし、中国武漢市を中心に、新型肺炎の患者と死者数の急増が伝えられると、急速に調整。31日に下げ幅は600ドルを超えた。日経平均株価も1月20日に高値を付けた後、2月3日には2万2700円台にまで下落した。震源地・中国でも、春節明けの2月3日の上海株式市場は休み前から7・7%の下落と荒い値動きだ。
市場関係者は、世界2位の経済大国となった中国経済がまひすることで、中国の内需のほか、グローバルなサプライチェーン(供給網)に悪影響が出ることへの警戒感を強めている。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は国内外のメディアの取材に対し、「生産や供給網に混乱をもたらしている」として、世界経済に短期的な下押し要因になるとの見方を示した。
実際、欧州経済のけん引役であるドイツでは、1月の高値から、フォルクスワーゲンが9%、BMWが14%下げた。ドイツの国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は4割にあたるが、その大黒柱は中国での販売に依存する自動車産業だ。米中対立による世界貿易縮小と中国の自動車販売激減で、ユーロ圏の製造業PMI(製造業購買担当者指数)は景況感の分岐点である50を割ったままだが(図2)、新型肺炎は、欧州製造業に一段の打撃となる可能性がある。
日本でも、武漢に製造拠点のあるホンダは、1月の高値から9%、中国で根強いブランド人気がある資生堂は14%、建機を手掛けるコマツも10%下落した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジストは「日本経済はもちろん、東アジア→東南アジア→欧州の波及経路で、世界経済に減速懸念が高まる。遠い欧州でも中国減速の影響は大きい」と見る。
資金が米国債へ逃避
そうした中、世界のリスクマネーは安全資産に向かっている。米国債市場では10年物利回り(長期金利)が「心理的節目」とされる1・5%に迫った(図3)。みずほ総合研究所の長谷川克之チーフエコノミストは「新型肺炎リスク懸念から、世界のリスクマネーが、中国から地理的に遠く、安全資産である米国債に集中した結果だ」との見解だ。リスクオフ(回避)の円買いも入り、為替市場では、1ドル=108円台まで円高が進む局面もあった。「トランプ大統領が選挙を意識してドル安誘導を図る可能性もある」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)と言い、日本株には逆風だ。
下値は2・75万ドルか
新型肺炎の影響はどの程度続くのか。市場では「2~3月は株価の調整局面だが4月以降は反発」という見解が多数だ。2002~03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、ダウは発生後の02年11月から上下動を繰り返しながら下落基調だったが、翌03年3月には底値を打った(図4)。今後、気温が上がり、湿度も上昇すると終息に向かう公算が大きい。
三菱UFJ国際投信の荒武秀至チーフエコノミストは「2~3月に調整を続け、最大2万7500ドル程度までの下落はありうるが、4月以降反発する」と予測する。
緩和マネー、株価押し上げ
世界各国で、景気下支えのための金融緩和の動きも加速している。中国人民銀行(中央銀行)は春節明け、株式市場の動揺を抑えるために1兆2000億元(約19兆円)を公開市場操作で供給すると明らかにした。
米連邦準備制度理事会(FRB)が19年10月以来やめている利下げを再開する可能性も浮上している。米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が変更される確率を示すCME「フェド・ウオッチ」は、1月27日時点の7・9%から31日には26・6%に跳ね上がった。新型肺炎を受けて、市場が年内利下げの可能性を意識し始めたサインと言える。
春に入り新型肺炎が終息するなかで、緩和マネーが株式市場に流入すると、新型肺炎ショックを打ち消すほどの反発があるかもしれない。
停滞するダウを横目に、ハイテク銘柄で構成するナスダック総合指数は4日に史上最高値を更新した。ダウ反発の兆候なのだろうか。
(編集部)