法務・税務民法改正

遺言書を書こう 法務局の保管制度も7月開始 偽造、なりすまし防止に効果=小堀球美子

    (出所)編集部作成
    (出所)編集部作成

     民法の相続関係部分(相続法)の改正で、配偶者居住権と併せて施行されることになったのが「遺言書保管法」、つまり法務局に自筆証書遺言を預けておくことができる制度だ。自筆の遺言は公正証書と異なり、遺言者が自らの「思い」を反映させることができる。相続財産の目録についてワープロ作成が可能になるなど、方式も緩和されており、遺言書を新たに作成したり、作成した遺言書を見直したりする機会としたい。

     民法は、有効な遺言の要式として、(1)公正証書による遺言、(2)自筆証書遺言、(3)秘密証書遺言──の三つを定めている(死亡の危機に迫られた場合にのみ認められる「危急時遺言」を除く)。

     公正証書遺言は公証役場で公証人が作成するため、要式の不備を指摘されることはない。公証人は遺言者が認知症の治療を受けている場合は診断書を持参させるなどの対応を取るので、「遺言能力がない」などの理由で無効を主張されるリスクもある程度防げる。

     ただし、公証人が作成に介入するため、遺言者が「思い」を書きつづるのが難しい。また、2人の証人が必要となるので、遺言の内容を秘密にすることもできない。費用が数万円から十数万円かかるというデメリットもある。

     一方、自筆証書遺言は、遺言者が自由に書くことができるので、思いのたけをぶつけることができる。方法も手軽で、費用もかからないため、気軽に書ける。一方で、全文を手書きで書く必要があるため、書き損じで無効になることがあるほか、これまでは保管方法も定まっていなかったため、紛失や偽造・変造の恐れもあった。

     そこで、改正相続法では、自筆証書遺言の財産目録の部分を別紙としてワープロで書けるようにし、財産目録を添付した場合の訂正加筆の方法を柔軟にした(2019年1月13日施行)。さらに、遺言保管のルールを定めることで、より気軽に、かつ確実に、自筆証書遺言で遺産の処分をすることができるようにした(20年7月10日施行)。

    家裁の検認も不要

     ここで、実際に自筆証書遺言を作成し、法務局で保管する方法を説明する。

     遺言者はまず、遺言の全文を自筆で書いて(財産目録の別紙を除く)、作成年月日を記し、名前を書いて印鑑を押す。封をしない状態で法務局へ持っていき、遺言の形式が法律に合っているかどうかを確認してもらい、遺言を預ける。

     この際の法務局とは、遺言者の住所か本籍、あるいは遺言者の不動産がある都道府県の法務局であり、遺言者本人が赴き、本人確認(運転免許証などで証明)をしてもらう必要がある。遺言者本人が所定の申請書を書くので、偽造やなりすましを防止でき、遺言者に「遺言能力」(遺言書の内容を理解して作成する能力)が備わっていることを、法務局の職員のフィルターを通してある程度、担保してもらうことにもつながる。

    遺言者は、いつでも遺言書保管の申請を撤回し、遺言をしなかった状態にすることができる。もちろん、撤回後、何度でも再申請することができる。

     遺言書データは電子化されるので、遺言者の死亡後、相続人や受贈者(遺言で遺贈された人)は、最寄りの法務局で遺言者の遺言が保管されているかどうかを照会し、コピーを求めることもできる。

     さらに、これまでの自筆証書遺言は家庭裁判所で検認の手続きを取る必要があったが、法務局で保管されている場合には、その手続きは不要になる。

     相続法改正のもう一つの目玉である配偶者居住権は、配偶者の住まいを保証したうえで、配偶者に住居以外の遺産をも与えることができる制度だ。相続税の節税になるとも指摘されており、遺言者は遺言で配偶者居住権を設定しておくことで、残される配偶者の生活を心配せずに済む。配偶者居住権の設定は施行日の4月1日以降に作成した遺言書で有効になる。

    裁判所の検認も不要

     Aさんが後妻のBさんの生活を守るため、何としても自宅マンションに配偶者居住権を設定しておきたいとしよう。その場合は自筆証書遺言に「思い」をつづり、遺言書保管制度を利用する。Bさんは相続開始後、法務局に保管された自筆証書遺言により、家庭裁判所の検認を経ることなくマンションの居住権を取得できる。

     また、Bさんは、例えば前妻の子Cさんに遺言書の存在を知られるリスクを避けることもできる。

     家庭裁判所の検認を必要とする場合は、一般に相続人など関係者に検認期日の呼び出し状が送付される。しかし、法務局での遺言書保管制度を使えば検認が不要となるため、BさんはCさんら他の法定相続人に分からないように、秘密裏に相続の手続きを進めることができるわけだ(ただし、呼び出し状の送付とは別の事情で知られる可能性は排除できない)。

     さらに、自筆証書遺言では認知症などをめぐって遺言能力が争われることが多いが、法務局に預ければそうした争いも抑制できる。

     配偶者の残りの人生を保護するという意味で、今回の法改正にはかなりの効果があるといえる。参考までに、自筆証書遺言で配偶者居住権を設定する場合の書き方を図で示した。これを機に、読者も自筆の遺言書に「思い」をつづってみてはどうだろうか。

    (小堀球美子・小堀球美子法律事務所弁護士)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月8日号

    もうかるEV(電気自動車)、電池、モーター14 「電動化」が業績・株価を左右 「次の勝者」探しも活発化 ■神崎 修一/桑子 かつ代/斎藤 信世16 巨人の焦り トヨタから「自動車」が消える日 ■井上 久男18 自動車部品 日本電産が台風の目に ■遠藤 功治20 図解 EV用電池「国盗り物語」 ■編集 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事