マーケット・金融中国発 世界不況

連鎖する“新型肺炎ショック” 日経平均「1万4000円」も=岡田英/浜田健太郎

世界中に飛び火した新型肺炎(Bloomberg)
世界中に飛び火した新型肺炎(Bloomberg)

 <新型コロナショック>

「金融市場は、新型肺炎の早期終息予想を“振り出し”に戻した」──。

 2月24日、ニューヨーク・ダウ工業株30種平均の終値が前週末比1031・6ドル安(約11万円安)の2万7960・80ドルとなったのを確認した金融アナリストの豊島逸夫氏は、そう指摘した。ダウが1日で1000ドル以上下落したのは、2018年2月以来約2年ぶりだ。

 米株急落に先立ち、韓国、イタリア、イランで新型コロナウイルス感染者が急増し、アジアと欧州の株式市場が大幅な「売り」で反応。これに動揺したニューヨーク市場が、それまでの史上最高値更新ムードをくつがえし、一気に悲観に転じた(図1)。

(出所)ブルームバーグより編集部作成
(出所)ブルームバーグより編集部作成

 25日には日経平均株価が一時、前週末比1000円超安まで下落するなど「世界同時株安」の様相を呈した。「市場では新型肺炎が金融危機を誘発しかねないという危機感が強まっている」(豊島氏)。

 事実、市場は完全にリスク回避にシフトした。米長期金利は26日、1・32%に低下し、16年7月に付けた過去最低水準を約3年半ぶりに更新した。安全資産とされる米国債に資金が流入したのだ。米債と同様、リスクオフ時に買われる金の価格も上昇。ニューヨーク金先物市場は一時、1トロイオンス=1691・7ドルと13年1月以来約7年ぶりの高値を付けた。一方、ニューヨークWTI原油価格は、世界景気減速で原油需要が減退するとの見通しから続落した。

高まる中国依存

(出所)国際通貨基金データから編集部作成
(出所)国際通貨基金データから編集部作成

 今回の世界同時株安は、中国発の「新型肺炎ショック」が欧州にまで波及したことが引き金になった。背景には、欧州経済が中国への依存度を高め続けてきたことがある。

「感染拡大は、中国への過度な供給依存に対する警告だ」。フランスのルメール経済・財務相は2月21日、危機感をあらわにし、医薬品の原料や自動車部品など中国への依存度が高い分野で調達先の多角化を図るよう、業界団体のトップらに求めた。

(注)国別の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合 (出所)国際通貨基金データから編集部作成
(注)国別の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合 (出所)国際通貨基金データから編集部作成

 中国への依存度を高めているのは欧州だけではない。国際通貨基金(IMF)の統計によれば、中国の国内総生産(GDP)が世界全体に占める割合は03年の4・3%から、19年は16・3%まで約4倍に拡大している(図2)。

 主な国ごとに、総輸出額に占める対中輸出額の割合を03年と18年で比べると、この15年間で輸出の対中依存度は軒並み上がっている。米国は4%から7%、日本は12%から20%にそれぞれ上昇した。さらに影響が大きいのは豪州(18年時点で34%)、韓国(同27%)、ブラジル(同26%)である。世界経済の中国依存度が高まった結果、新型肺炎が世界経済に与える損失は、03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時よりも大きくなるのは、ほぼ確実と見られる。

 中国依存度が高いほど、中国向け輸出の減少や、中国からの旅行者数の減少を通じ、新型肺炎ショックの影響は大きくなる。主要国の中でも特に景気のダウンサイド(下押し)リスクが大きいと見られるのが日本だ。

日本は景気後退が濃厚

(出所)財務省貿易統計から編集部作成
(出所)財務省貿易統計から編集部作成

 日本の対中輸出で額が大きい品目は、半導体・電子部品や半導体製造装置、自動車、光学機器、化学品、鉄鋼などである。

 対中輸入では、スマートフォンなどの通信機器を筆頭に衣類、パソコン、音響映像機器と続く(図3)。新型肺炎の発生地、湖北省には半導体・電子部品や素材、鉄鋼の生産拠点も多く、サプライチェーン(部品供給網)の寸断で影響が出る可能性がある。

 画像センサーで好調が続くソニーの十時(ととき)裕樹・最高財務責任者(CFO)は、2月4日に開いた19年4~12月期の決算記者会見の場で「製造、販売、サプライチェーンに多大な影響が生じうる」との見方を示した。

 湖北省に工場を持つホンダと日産自動車も、同省が企業の休業期間を3月10日まで伸ばしたことから、再開時期は3月中旬以降にずれ込む見通しだ。

 一方、中国からの輸入品目のうち、額の大きい衣類は、ユニクロが新型肺炎の影響で生産・物流に遅延が出たとして、一部の新商品の発売を遅らせた。

 新型肺炎によるインバウンド(訪日外国人観光客)減少による悪影響も、SARS流行時とは比較にならないほど大きい。19年の訪日外国人観光客数は03年の約6倍。うち中国人観光客は約21倍に激増し、全体の3割を占めるまでになっている。野村総合研究所の試算では、訪日客が34・2%減ったSARSの最悪期と同程度の影響が1年続くと仮定すると、日本のGDPを0・45%(2兆4750億円)押し下げるという。

 日本のGDP成長率は19年10~12月期にマイナス6・3%まで落ち込んでいるが、今回のインバウンド減少やサプライチェーン断絶による影響で持ち直しが遅れるのは避けられない情勢だ。それどころか、20年1~3月期も含め、2期連続のマイナス成長となる可能性が高まっており、「景気後退入り」が濃厚になってきた。

 BNPパリバ証券の河野龍太郎・チーフエコノミストは「3月に感染者数が頭打ちする前提でも20年の日本経済は暦年ベースでマイナス成長となる可能性が高い。頭打ちが遅れればさらに落ち込むだろう」と見ている。

過剰債務の破裂も

 新型肺炎をきっかけに、中国では、金融危機が発生するリスクも高まっている。

 中国の企業の債務残高の対GDP比は、日本のバブル期を上回っており、社債の債務不履行(デフォルト)も米中貿易戦争が激化した18年から激増している。(債務膨張 貸し渋りにあえぐ民営企業はこちら)

そこに新型肺炎が襲いかかった。

 ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表は「資金繰りが悪化していた中国企業が新型肺炎で一気にとどめをさされ、破綻が続発しかねない」と危機感を募らせる。感染拡大が3月末まで続けば、過剰債務の破裂が年内にも始まりかねない。

「そうなれば世界景気がさらに冷え込む結果、日経平均が1万4000円まで落ち込む可能性も出てくる」(菊池氏)。新型肺炎ショックの“飛び火”で日本が被る経済損失は計り知れない。

(岡田英・編集部)

(浜田健太郎・編集部)

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