CDプロジェクト ポーランド最大のコンピューターゲーム開発=児玉万里子/281
◆CD Projekt
CDプロジェクトは、ポーランド最大のコンピューターゲーム開発会社。2010年にワルシャワ証券取引所に上場した。19年以降、CDプロジェクトの株価は上昇を続け、時価総額は国内の売上高トップの精油企業PKNオーレンの時価総額に匹敵する。PKNオーレンの19年12月期の売上高は1112億ズロチ(約3兆円)に対し、CDプロジェクトは売上高が過去のピークの年でも10億ズロチにも届かない。それでも投資家から高い関心が集まっている。20年3月初旬にはワルシャワ証券取引所の上場会社448社のうち、銀行・損保を除くとCDプロジェクトは時価総額トップだ。
CDプロジェクトは、1994年5月にゲーム好きの2人のポーランド人の若者、マーチン・イウィンスキとミヒャール・キシンスキによって設立された。当初は海外のコンピューターゲームをポーランド国内で販売していた。「東側」だったポーランドの若者たちは「西側」の最先端のゲームに飢えていたのだ。そして、02年に同社はゲームの開発に自ら乗り出す。今日では、ゲーム開発部門が売上高、利益ともに同社の中心を担っている。もう一つの主要部門は、08年にスタートしたゲーム配信事業。今では世界中の600社以上が制作した約2800本のゲームを、自社のプラットフォームで販売している。
高いゲーム熱
ポーランドはゲーム熱が高く、高年齢層にも人気があるのが特色だ。一方、国内のゲーム会社は約400社にのぼり、中小企業がほとんどだ。毎年100本前後のポーランド製のゲームが発売されるが、大部分が輸出されている。高い教育水準とゲームへの関心の高さから品質の良いゲームが作られる一方、賃金水準は比較的低いことが輸出競争力になっているようだ。現在では、国を挙げてゲーム産業の育成・躍進を図っており、政府が連携した研究開発資金援助の仕組みも整えられている。
CDプロジェクトは、ゲーム開発では国内トップ企業で、収益面で2位以下を大きく引き離している。18年12月期の売上高は3億6200万ズロチ (約107億円)、19年1~9月の9カ月の売上高は3億700万ズロチ (約90億円)。新たに開発・発売したゲームの販売動向が売上高を左右するため、ヒット作発売のタイミングによって売り上げは大きく変動する。
CDプロジェクトが開発・発売したゲームで最も有名なのは「ウィッチャー」シリーズの3部作。ポーランドの作家アンドレイ・サプコフスキのベストセラー小説をもとにした、中世の魔物退治のファンタジーだ。このシリーズの累積販売本数は4000万本を超えている。02年に開発に着手し、最初のシリーズが発売されたのは07年、11年に第2シリーズ 、15年に第3シリーズが発売された。
この第3シリーズは爆発的にヒットし、CDプロジェクトの売上高を激変させた。14年には1億ズロチに達しなかった売上高が15年には7億9800万ズロチまで一気に拡大した。その後、新製品の売れ行きが落ち着くとともに、売上高は減少していき、18年は15年の約半分にとどまっている。15年に売上高が急増するとともに、粗利益、営業利益も急拡大した。その後売上高が減少しているため、粗利益、営業利益はいずれも縮小しているが、粗利率は70~80%を維持している。18年の売上高営業利益率も30%超と極めて高い水準だ。
多い開発要員
CDプロジェクトのコストの大部分は、人件費と推定される。会社資料によると18年末の従業員数は887人、19年上期には1000人を超えた模様だ。ゲームの開発は社内の専門チームに託されており、開発要員が従業員全体の約3分の2を占めている。
14年以降のポーランドの国内売上高は全体の4〜5%だ。輸出先は北米が最も大きく、次いで欧州各国だ。同社の売上高や利益はドルやユーロに対するズロチレートの変動の影響を基本的に受けるが、16年以降の販売数量の大きな減少に比べると、ズロチレートの変動は小幅にとどまっており、その影響は限定的だったと考えられる。
同社は二つの経営方針を掲げている。第一は妥協することなく、製品の高い品質を実現すること、第二は財務においても製品の独創性においても、独立を保つことである。そして、第二の独立維持によって、第一の製品の高品質も実現できると考えている。財務の独立性を維持するためには、新作発売によってキャッシュが入ってくるまで、会社が持ちこたえなければならない。新作発売後の端境期を頑張り切れるかどうかは、基本的には十分な預金残高を維持できるかどうかにかかってくる。
同社の資金の動きをみると、15年に作品の大ヒットにより多額の資金が流入している。営業キャッシュフロー(事業から得られた現金)によって設備投資や開発投資(仕掛け中のプロジェクトの人件費など)がまかなわれ、さらに残りが現預金に大きく積み増された。その後の16~18年には営業キャッシュフローは減少したが、設備投資や開発投資を負担することができた。
その結果、現預金残高は増加を続けた。19年1~9月の9カ月決算でも、営業キャッシュフローで設備投資や開発投資をカバーすることはできたが、19年には17年に次いで株主に配当を支払ったこともあり、現預金はわずかに減少している。
CDプロジェクトは14年以降、期末の有利子負債はない。一方、19年9月末の現預金残高は5億9300万ズロチにのぼり、総資産の約半分を占めている。これによって、20年9月に予定される次作の発売まで持ちこたえようという戦略だ。
(児玉万里子・財務アナリスト)
任天堂の収益変動 ヒットメーカーでも宿命
ゲームソフトやゲーム機は、新製品が大ヒットしたとしても、いずれ人気は沈静化する。従って、ゲーム会社は次々と新製品を開発し発売していかねばならない。
日本のゲーム業界の巨人、任天堂も収益変動のただ中にいる。売上高は2009年3月期の1兆8300億円をピークに17年3月期はその約4分の1に縮小。だが、その後Nintendo Switchのヒットによって、売上高は増加に転じ、19年3月期は1兆2000億円まで戻している。この間、12~14年度は営業赤字となり、営業キャッシュフローもマイナスだった。
任天堂の09年度以降の現預金(有価証券を含む)残高は、7000億~1兆2000億円台で、これは各年の総経費(原価と販売管理費)の11~24カ月分に相当する。CDプロジェクトの15年度以降の現預金残高も総経費の14~34カ月分だった。持ちこたえるためのクッションの役割を果たしてきたと言えるだろう。
(児玉万里子)
企業データ
本社所在地=ポーランド、ワルシャワ
CEO=アダム・キシンスキ(Adam Kiciński)、マーチン・イウィンスキ(Marcin Iwiński)
総資産=11億2600万ズロチ
純資産=10億200万ズロチ
売上高=3億6200万ズロチ
営業利益=1億1200万ズロチ
当期純利益=1億900万ズロチ
従業員数=887人
上場取引所=ワルシャワ証券取引所
(注)数字は2018年12月期