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教養・歴史 書評

歴史人口学者の先見の明 今こそ速水融を読む=本村凌二

 歴史を長期的・全体的にながめるとき、歴史人口学とよばれる視点はことさら基本となるのではないだろうか。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは現代日本の最大の課題は「少子化」であり、年金、労働力、国防の問題もそこに起因すると指摘している。日本では昨年末に逝去した速水融が泰斗である。

 速水融『歴史人口学事始め』(ちくま新書、1000円)は、副題に「記録と記憶の九〇年」とあるように、自分の人生を振り返りながら、日本の歴史人口学成立の事情を語っている。助教授時代にエジプトのピラミッドの頂上に登り、古代文化のあまりの壮大さを感じて、歴史観の転換が起こったという。その晩の夢にはクフ王の亡霊が出てくるほどだった。

 やがてベルギーで親しくなった教授から、フランスの教区簿冊(ぼさつ)(教区の司祭が区民の洗礼や婚姻などを記載した記録)を用いたルイ・アンリを中心とする人口動態史の研究書を知り、歴史分野にノーベル賞があれば受賞に値すると思ったという。日本経済史を担当していた著者は、日本には「宗門改帳(あらためちょう)」があり、住民の日常行動(生死・出産・移動など)をめぐる史料となることに気づき、歴史人口学の虜(とり…

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