激動マーケット3 日本株「二番底」探る 連休明け決算期に安値か 下値1万6000円は死守=阿部健児
日本政府が緊急事態宣言を発令した4月7日、「二番底」も懸念された日経平均株価は反発し、7日ぶりに1万9000円台に回復した。欧米では外出制限などによって1日当たりの新型コロナウイルス感染者数にピークアウトの兆しがみられていることから、国内での感染の抑制に期待感が広がったと考えられる。
3月19日に終値ベースで1万6553円の年初来の最安値を付けて以降、日銀による上場投資信託(ETF)買い入れの積極化、各国の経済対策といった発表が相次ぎ、株価は比較的安定している。市場は、今後予想される国内の感染者数の急増を織り込み済みであり、「既に最悪期は過ぎた」との見方も広がっている。
目下の関心事はもっぱら、「二番底はあるか否か」だ。
夏場にかけ「買い場」
二番底の可能性は大いにあると筆者はみている。5月連休明け、決算発表が集中する時期から夏にかけて日経平均は再び1万6000円台に下落する可能性がある。
決算発表では各社、1〜3月期業績の深刻な落ち込みと収益環境の悪化について経営者から具体的な説明があるだろう。特に、日本経済の屋台骨である自動車産業の厳しい状況が鮮明になるだろう。
自動車産業の冷え込みは、他の産業に波及する。自動車製造に使用される鉄、アルミなどの素材、自動車に搭載される電子部品などに対する需要も減少が見込まれる。自動車関連の設備投資も低迷は不可避とみられ、関連の雇用にも悪影響があるはずだ。これが投資家心理を再び冷え込ませる。
また、日本株に影響を与える米国経済の動向も懸念材料だ。米国での外出制限などの措置は、すでに雇用にも深刻な悪影響を与えており、新規失業保険申請件数は3月下旬から2週連続で600万人台の後半を記録。雇用の悪化は米国の消費を減少させるだろう。
さらに消費には習慣形成が働くため、いったん冷え込んだ消費の回復には時間を要する。世界経済のけん引役である米国消費の失速で、市場の世界景気見通しは下方修正され、株価下押し圧力となるだろう(図1)。米株安は日本株安につながる。
筆者は日本株が二番底を探り、日経平均が1万6000〜1万7000円台に下落したときが、買いの好機と捉えている。
図2にTOPIXの予想ROE(株主資本利益率)とPBR(株価純資産倍率)の関係を示した。ROEが8%(投資家の株式に対する要求リターンとされる)を上回ると、ROEの改善とともにPBRが上昇する。逆にROEが8%を下回ると、PBRは1倍付近(0・8倍台半ば〜1・2倍)で推移する傾向がみられる。
これを踏まえると、株価はROEの水準に応じ次のように動く。
(1)ROEが8%を上回ると、「企業の株主資本」は、仮に企業が解散した場合に市場で売却する場合の価値=「解散価値」(企業の資産総額から負債総額を差し引いた株主資本〈純資産〉)よりも高く評価される。この場合「PBR≫1倍」となり株価は上昇する。
(2)ROEが8%のときは要求リターンどおりの収益を上げているので、株価は解散価値どおりの評価となる(PBR=1倍)。
(3)ROEが8%を下回ると、解散価値が支えとなって株価が下落しにくくなると解釈できる。
TOPIXのPBRが、ROEが8%を下回る場合の下限である「0・8倍」台半ばに相当する日経平均は1万6000円台半ば程度と計算される。2020年度の日本企業の業績は厳しく、ROEは8%を下回る蓋然(がいぜん)性が高いが、日経平均株価が1万6000円を大きく下回るリスクは小さいだろう。
そのタイミングでは、過去5年間の売上高成長率、売上高営業利益率が共に上位に入るような優良企業への投資を選択したい。
優良企業の中でも特に注目しているのは、次の三つだ。
一つ目は、5G(第5世代移動通信システム)移行から需要増の恩恵を受けやすい電子部品メーカーや半導体製造装置メーカーだ。新型コロナの感染拡大を経てもなお、5Gへの移行は着実に進むと考えられるからだ。
二つ目は医療機器メーカーやヘルスケア関連企業だ。世界的規模での高齢化の進行を踏まえ、中長期的な成長が見込まれる。三つ目はITシステム関連企業だ。日本企業は従来から人手不足を生産性向上で補うためITシステムに積極的に投資してきた。テレワーク対応という要因も加わり、ITシステムへの積極的な投資姿勢は中長期的に維持されるだろう。
年度末2万3000円台
筆者は、20年度後半に株式市場は21年の経済正常化を織り込み始め、二番底を脱して本格的な回復軌道に乗ると予想する。「コロナ前」に実施された金融緩和が当面維持されること、21年の東京五輪開催に伴うインバウンド需要の回復期待があることなどから、今年度末には2万3000円台を回復するとみている。
ただし、リスクシナリオとして、(1)日米欧での外出制限緩和後の感染拡大、(2)ワクチン開発の遅れ、それに伴う21年の東京五輪のキャンセル、(3)経済正常化の22年以降への後ずれ──が現実になる可能性も考えられる。この場合、20年度末まで株価低迷が続くだろう(図3)。
(阿部健児・大和証券チーフストラテジスト)