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「米国経済はV字回復」がいまいち信用できないワケ……待ち受ける「財政の崖」に相場はどう反応するのか(立沢賢一)
「予想通り」の「V字回復」を見せる米国経済
昨今発表された経済指標から判断しますと、米国経済はトランプ政権が予想していた通り、ミクロ・マクロともL字型というよりV字型に近い回復を見せ、来年に向けて順調に回復する見込みです。
しかしながら、現状の雇用統計の詳細から分析しますと、米国経済回復が本当に国の末端にまで浸透しているのかといえば、懐疑的にならざるを得ないのです。
ですが、ここでは100歩譲って米国経済がV字回復したとしましょう。問題はその先です。
これまではFRBによる金融緩和と米国政府による財政出動というある意味、「特需」を利用して、米国経済は力尽くで無理やり引っ張り上げられて来たのです。
9/11に、2020会計年度(19年10月~20年9月)の米国財政赤字は、8月までの11カ月累計で3兆73億9000万ドル(約400兆円)を突破したと発表されました。
その金額は新型コロナウイルス感染を受けた3度に及ぶ大型財政出動の影響で、リーマン・ショック後の2009年度に記録した過去最大の赤字(約1兆4000億ドル)の約2.7倍に膨らんだ計算になります。
新型コロナショックが発生しなければ、そのような天文学的な金額の財政出動は絶対に有り得なかった訳ですから正に異常事態と言えます。
そしてその財政出動に依存した米国経済は、あたかも麻薬常習者の如く、それが継続的に行われないと生きていけない体質になってしまっているのではないかと筆者は懸念しているのです。
それは何を意味するかですが、今後期限切れになる各種政策が継続されないと、米国経済は崖から真っ逆さまに転落するように、「財政の崖」に直面してしまうのです。
「財政の崖」に翻弄される運命
景気低迷を打開するために2001年と2003年の2度にわたり、大型減税がアメリカで行われましたが、これは当時のジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領が行った政策で、「ブッシュ減税」と呼ばれています。
その後、バラク・オバマ大統領によって、ブッシュ減税の期限が2012年まで延長されました。
そして、この減税の期限が切れる2013年1月からは、「強制的な歳出削減」が予定され、ブッシュ減税の終了に伴う「実質増税」と合わせて、米国経済が崖から転落するような事態が懸念されていました。
これが「財政の崖」と呼ばれるものです。
今後予想されている財政の崖として、一番大きいのは5000億ドルから2兆ドルの間で落ち着くであろう規模の追加景気刺激策ですが、正に現在、与野党対立が激化し、実行されるのは11月の大統領選後にもつれそうな状況です。
そうなりますと、市場予想では年率20%以上の経済成長を第3・四半期で達成した後の第4・四半期以降の米国経済の成長率はどうなるのかが本当に未知数となります。
市場では年率3-5%成長にまで成長率は下がると予想していますが、予想よりも悪化する可能性は否めません。
ここ数カ月の米国株高は信用できるのか?
米国株式市場に目を移しますと、ここ数カ月の株価V字回復はFAANG主導のテック企業群が牽引したと言っても過言ではありません。
これがニューノーマルだという意見もありますが、私は現時点では多分に情緒的なものではないかと思っております。
確かに、米国株式市場がコロナ前の株価水準に戻るのはある意味、正当化できます。
既述した金融緩和政策と財政政策によるウルトラC的なカンフル剤が効き、経済も株価も新型コロナウイルス感染前の時期である今年の第1・四半期レベルにほぼ戻ったのは繰り返しますが、力尽くだからなのです。
つまり、力尽くで無理やり引き上げられた後のこれからの株価上昇は、材料難の中、かなり投機的な色彩が強くなると言わざるを得ません。
第1・四半期と比較した場合、現在、米10年債利回りは約1%下落し、米ドルインデックスは5%下落しましたが、その恩恵でFRBは株価の下支えを達成できたのでした。
ちなみに複数の主要通貨に対する、米ドルの為替レート(相場)を指数化したもの米ドルインデックスといいます。
一般に米ドルインデックスは、ユーロや日本円、英ポンド、カナダドル、スイスフランなど複数の主要通貨に対する「米ドルの総合的な価値」を示す指標であり、個別の一通貨のみの為替レートよりも、世界経済における米ドルの価値(強弱)を正確に見ることができます。
なお、日本では、ドル高と言った場合、通常、円安ドル高をイメージしますが、外国為替市場において円安ドル高が進んだからといって、必ずしも米ドルインデックスが高くなるわけではないのでご注意ください。
今FRBは何を考えているのか?
FRB( 米国連邦準備銀行 )は市場の動揺を早期に収束させ、合理的な経済見通しを株価が正しく反映するような誘導を行ったのは成功だったと言えます。
8/27にFRBはイールドカーブコントロール(YCC) から平均インフレ率目標へと政策変更を表明しました。
それはこれまでのようにFRBが当座預金の付利を調整して短期金利や公開市場操作により長期金利を意図的に調節していた政策から、短期金利のみに注力し、完全雇用を目指す目標に注力するために、多少の長期金利の上昇は止むを得ないという政策に転換したことを意味します。
FRBは物価安定化と完全雇用という2つの目標を掲げているのですが、これからは少しでも雇用状況を改善させることに集中し、米国経済の完全復活を目指そうとしているのです。
その背景は既述の「財政の崖」リスクを想定し、FRBが何をすべきかを的確に判断したのだと言えます。
FRBの完全雇用優先政策が果たしてどこまで機能するのかはまだ不確定ですが、もし雇用関係が改善される見込みが窺えれば、株価は投機的色彩から投資的色彩へと色合いを変えて上昇することでしょう。
その場合は、米国株式市場はバリュー株もグロース株も共に上昇し、更なる高値更新を達成することになるると思われます。その点で、今後の株価動向を占う上で、雇用状況を注視する必要性は非常に高まるのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/
投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic