教養・歴史書評

よみがえる夭折の思想家 仏典研究に一石を投じる=今谷明

 江戸(近世)の思想家といえば、儒学・国学(自然科学では蘭学)と相場が決まっているなかで、商都大坂では、儒学でも国学でもない特異な学説を唱えた町人学者が登場した。世界に先駆けて仏典を実証的に読解し、学問上の研究方法に論理的基礎を置いた富永仲基(なかもと)である。

 釈徹宗(しゃくてっしゅう)著『天才 富永仲基 独創の町人学者』(新潮新書、800円)は、浄土真宗僧侶にして宗教学者である著者が、仲基の学説と人物像を分かりやすく解き明かした新書である。

 仲基は新井白石の執政が終わらんとする頃、大坂の豪商の家に生まれた。父親の道明寺屋吉左衞門は酒としょうゆを商い、大坂の官許学問所懐徳堂を創立した「五同志」の一人。その生きた時代は、将軍徳川吉宗の享保の改革と重なる。仲基はわずか31歳で夭折(ようせつ)したため、同時代人には評価されなかった。

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