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コロナ禍で加速するオンライン診療 その現状と今後 街の医院から離島医療、AGA治療まで

     新型コロナウイルスの感染予防対策として、オンライン診療がクローズアップされている。今年4月には特例措置として初診でのオンライン診療が認められ、10月には田村憲久厚生労働大臣が特例を恒久化すると表明した。導入する医療機関が増える中、オンライン診療は今後どう進展していくのか。現状や課題、展望などを探った。

    感染拡大が続く新型コロナ。国も進めるオンライン診療

     新型コロナウイルス感染症は、5月に緊急事態宣言が解除されたあと、7月から8月の第2波と呼ばれた感染拡大を経て、現在はそれを上回る新規感染者数が記録され第3波と言われている。こうした中、医療従事者と患者の双方が感染リスクを回避できるオンライン診療に注目が集まっている。

     国も時限的・特例的な措置として、これまで認めていなかった初診での利用を4月に承認。10月には田村憲久厚生労働大臣が「安全性と信頼性をベースに、初診を含め原則解禁する」と恒久化を表明した。菅義偉首相も就任会見で「オンライン診療は今後も続けていく必要がある」と明言し、これを受け日本医師会の中川俊男会長が、「医療のデジタル化には全く異論はない」と述べている。

     もともと、日本におけるオンライン診療は、1997年に「情報通信機器を用いた診療」という名称で、離島の患者や病状の安定した在宅糖尿病患者などを想定してスタート。以後、必要性や安全性、有効性を考慮しながらルールが整備されてきた。

     パソコンやスマートフォンなどがあればどこでも受診できるオンライン診療は、時間や距離の制約から解放されるメリットも大きい。このため、多忙なビジネスパーソンや、移動に困難を伴う高齢者、医療機関までの距離が遠い地域など、その恩恵を享受できる人は少なくない。

     とはいえ、実際にオンライン診療を受けたことのある人はあまり多くないだろう。そこで今回は、オンライン診療を行っている3つの医療機関に話を伺い、活用状況や実感しているメリット、デメリットなどについて探った。

    初診解禁を機に導入。患者さんに多くのメリット

     千葉県習志野市の「さきたに内科・内視鏡クリニック」では、オンライン診療で初診が認められた今年4月に導入。初診の患者には診療用のスマートフォンアプリ「クロン」と「LINE電話」、さらに再診の患者には電話でも対応している。

     崎谷康佑院長によれば、「再診の患者さんは電話で対応できる薬の処方などが多いため、オンライン診療は当初から初診の方が多かったです」とのこと。診療に際しては、症状についての問診や普段使っている薬、アレルギーの有無などを丁寧に聞き取り、薬を処方している。

     オンライン診療は、医療従事者にとっても感染防止策となるが、「オンライン診療のメリットは、患者さんのほうにより多くあると思います」という崎谷院長。医療機関に行く必要がなく、診療までの待ち時間などもないため、感染リスクの回避に加え、時間や労力が節約できるからだ。

     もちろん、触診や聴診などができないオンライン診療には限界がある。このため、オンラインで診療した上で、採血やレントゲン撮影などのため来院を促すこともあるという。

     現在は、緊急事態宣言のころに比べ外出を控える人が減る傾向にあり、来院する患者も増えてオンライン診療は減少しているという崎谷院長。「これまでの経験から、オンライン診療は、病状が落ち着いてルーティンの処方をしている患者さんや、移動が大変で密も避けたい高齢者の方などにメリットが大きいと思います」とのことで、ウイズコロナの時代には有用な手段だと話す。

    街の病院と離島の診療所を結び、フェリー欠航でも診療

     次は離島の事例だ。大分県津久見市にはフェリーで約25分の保戸島があり、診療所の医師が週に4日通って島内の診療所で患者を診ている。しかし、台風や波の高い日にはフェリーが欠航となる。このため、新型コロナの感染拡大もあってオンライン診療の必要性が高まったことから、市の補正予算に150万円を盛り込んでシステムを導入。オンライン診療を実施するため、市内にある津久見中央病院の非常勤医師として登録した。

     津久見市医師会の朝生剛次事務局長によれば、「2017年度から19年度にかけて、日代地区から保戸島地区に光ブロードバンドの整備が完了しており、オンライン診療ができる下地は整っていました」とのこと。ただし、今回導入したオンライン診療は通常と異なり、医師が病院にいて自宅にいる患者を診るのではなく、医師は津久見中央病院にいて、島の診療所に来た患者を診るというものだ。

     診療所では島に住む看護師が患者をサポートするため、オンライン診療はかなりスムーズに行えるという。開始前の見学会に参加した患者からも「画面を通してお医者さんの顔を見ながら診療してもらえ安心感がある」という声が聞かれたと、朝生事務局長は紹介する。

     課題もある。津久見市のケースでは、保戸島の診療所にいるのが看護師だけのため、薬剤師法の規定で薬の処方ができず、後日船便で届けることになる。そこで、オンライン診療で医師が処方すれば保戸島診療所内の薬が提供できるよう、行政から内閣府に提案書を出しているという。

     津久見市の場合、離島のほかにへき地も抱え、オンライン診療のニーズがまだあることから、「必要な人にタブレットなどを貸与するなど、今後も施策を進める必要があると考えています」と朝生事務局長は話す。全国には同様の医療問題を抱える地域は少なくないと考えられ、津久見市での取り組みの進展が注目される。

    保戸島診療所で画面越しに医師と話す住民
    保戸島診療所で画面越しに医師と話す住民

    少しでも早いAGA治療のため、初診の精度向上に注力

     3例目は、コロナ前からオンライン診療を行い、4月から初診にも対応を始めたAGA治療の銀座総合美容クリニックだ。男性型脱毛症のAGAは、科学的に効果が認められた医療用薬品が2005年に承認され、病院・クリニックでも治療が行われている。

     通常同クリニックでは、治療効果や体質に合っているかを見極めるため、半年ほどは薬を中心とした治療を行い毎月通院してもらって状態を確認している。こうして治療がある程度コントロールできるようになった患者に対し、仕事などで来院できない月にオンライン診療を行ってきた。

     それが、初診のオンライン診療が認められたことから対応を始めた。もちろん、AGAの状態をしっかり診るには対面診療がベストだ。しかし、コロナ禍の感染の不安から来院が遅れることが、少しでも早く始めたほうがいいAGA治療の開始を遅らすことにつながってはとの配慮から、初診でのオンライン診療を認めたのである。

     このため、同クリニックが最も重視したのが、ヒアリングの精度を高めることだ。起床時や洗髪時の抜け毛の量や細い毛が混じっていないかなど、患者の協力を得ながらAGAの状態を詳細に確認して極力通常と変わらない診察を実施。これにより、多くの患者が新型コロナの感染リスクを回避して、治療を始めることができたという。

     また、同クリニックでは、オンライン診療はAGA治療を継続しやすくするための、対面診療と組み合わせる選択肢の一つと位置づけている。その上で、オンラインも対面も変わらないきめ細かな治療ができるよう取り組んでおり、コロナ禍が予断を許さない状況でも安心して利用してほしいと話す。

    対面とオンラインを、いかにうまく組み合わせるかが重要

     今回の取材から見えてきたのは、患者の状況や診療科の違い、地域特性などにより、オンライン診療のメリットが生かせるケースと、デメリットに直面しているケースがあることだ。それでもコロナ禍における初診を含めた全面解禁は、感染の回避というメリットが、オンライン診療で危惧されてきた誤診のリスクを上回った結果といえるだろう。

     メリットを享受できる人が多くいることが明らかになったオンライン診療は、まだまだ多くの可能性を秘めている。今回の取材でも、対面診療とオンライン診療をいかにうまく組み合わせるかがポイントとなっている。オンラインのメリットを生かす取り組みでいかにデメリットを軽減できるか、それがより重要になってくるのではないだろうか。

    (編集部)

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