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教養・歴史 書評

コロナ禍の鬱屈した日々 市井の人々の物語にふける=楊逸

×月×日

 読書の秋。海のかなたで繰り広げられた米大統領選のバトルが気にかかり、いちいちニュースをチェックせずにはいられない。

 短編集『降るがいい』(佐々木譲、河出書房新社、1700円)を読む。

 まずは表題作。「きょうは御用納めの日。事実上の一年が終わる日だ」。勤め人なら「お疲れさま」と、奥さんの笑顔とともになみなみとついでくれた盃を上げて、一家だんらんを楽しむはずの日に、主人公の加藤孝志はなぜか飲み屋を回って人探しをしていた……。新しい年を迎える前に、妻子持ちの中年男性に突然降りかかった「再就職採用の取り消し」という不幸。そんな難局をどう乗り越えればいいのか、先が思いやられる。

「反復」も、一度失業して次なる職を探す中年男性の物語である。仕事のできる男を自任し、大手広告代理店に勤める森田秀一は、「下請けのイベント会社の社員」だった二宮淳史を自分のセクションに転職を勧めたまではよかった。が、一緒に仕事するようになって、かつてイベントの現場で見せた「マネージャーとしてそつがなく、気が回って、想定外の事態やトラブルへの対応能力も優れて」いる彼の長所が裏目に出て過労になってしまう…

残り770文字(全文1262文字)

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