片山杜秀の闘論席
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大老という役職が江戸幕府にあった。といっても平時は空席である。普段の幕政は数名の老中を中心に行われた。老中首座が総理大臣で、他の老中が閣僚と思えばよい。
だが、老中たちの、妥協点を求めてしばしば玉虫色で決着する合議では、現実に追いつけぬ場合もある。いわゆる国難だ。そのとき任命されるのが大老。幕末の危機なら井伊直弼(いいなおすけ)がそうだった。大老の決断は将軍でさえ覆せないと言われた。
つまり大老とは、例えば古代ローマの緊急独裁官に似ている。非常事態を収めるために全権を委任され、平時に復せば直ちに去る。そんな大老的役職は民主主義と相性が悪い。ナポレオンのように緊急独裁官的に登場しながらそのまま居座って皇帝になった悪例もある。
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週刊エコノミスト
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